フォーカス 私たちの実践 医科・歯科・介護の連携 福岡医療団歯科衛生士群 在宅の口腔ケアの要はホームヘルパーその実態を調査
高齢者の在宅生活をささえる歯科医療や口腔ケアの必要性が高まる中、福岡医療団歯科衛生士群は、訪問介護事業所への学習会に先立ち、ホームヘルパーにアンケートを実施しました。第22回歯科学術・運動交流集会で、たちばな診療所歯科の歯科衛生士・山口こずえさんが報告しました。
超高齢社会の進展により、在宅歯科医療や訪問口腔ケアの必要性が高まっています。口腔と全身との関係やQOL向上という観点からも、歯科と医療・介護との連携が求められています。そんな中、当歯科の患者も多数利用する訪問介護事業所から、口腔ケアの学習会を依頼されました。そこで、ホームヘルパーの現状を把握するために、事前アンケートを行いました(別項に概要)。
■気づいても実践は難しい
対象は同事業所のホームヘルパー82人。年齢は10~70代です。
(3)口腔ケアは行っていますか? の問いに「いいえ」と答えた人(60%)に、(4)口腔ケアができない理由は何ですか? と質問しました。時間がない/やり方がわからない/道具がない/拒否がある、という指定項目を設けましたが、多くあがった意見は、それ以外の「サービスに入っていない」でした(図)。
ケアマネジャーがサービスプランに入れるか入れないかで、ホームヘルパーの意識が変わることを初めて知りました。ケアマネに対し、口腔ケアへの理解を得られるような活動も、同時に行わなければいけないと気づきました。
(3)に「はい」と答えた人(36%)に、(5)口腔ケアを始めたきっかけは何ですか? と質問しました。「頼まれたから」「磨き残しや汚れがあったから」「人間らしい生活をしてもらいたいから」「誤嚥防止や食後のケアとして」など、サービスになくても必要な時に実施していることもわかりました。
(8)口腔ケアを行っていて困っていること、知っておきたいことは何ですか? との質問では、技術/口腔の疾病/全身疾患との関連性/口腔・摂食・嚥下リハビリ/感染対策/姿勢・ポジショニングの6つの指定項目(複数回答可)を設けました。すると、技術や全身疾患との関連性が多く、その他についても平均的に学習意欲があることがわかりました。
(9)訪問時に「歯」や「口腔」に問題があるかも知れないという場面に出会うことはありますか? の問いに「ある」と答えた人(44%)に、(10)それはどのような時ですか? と問うと、「飲み込みづらいなどと訴えがあった時」「口臭がする時」「歯ブラシが汚れている」などがあがりました。現場でこのように感じても、他の介護サービスとの兼ね合い、口腔清掃を継続するマンパワーの不足、職員の認識が大きく影響すると感じました。
■専門職として発信を続ける
アンケートにもとづき、1時間半ほどの講話を実施。内容は、(1)口腔ケアの基礎知識、(2)口腔ケアの実践、(3)訪問介護の現場で、です。誤嚥性肺炎や他の疾病との関連、口腔ケアの目的を伝え、実践方法を動画で紹介、介護現場で気づける虫歯や歯周病の画像を示し、「こんな利用者がいたら連絡をください」と話しました。
参加者の感想や理解できたことでは、「口腔ケアは生活の質を左右する」「食べる、話す、笑うは健康につながる」など、前向きなものが多数寄せられました。
* * *
他職種が専門外の口腔ケアにも目を配るのは難しいと思います。一方、歯科往診は月1回以下という場合も少なくありません。頻繁に利用者とかかわるホームヘルパーは、特に頼りになる存在です。
歯科衛生士も「全身の健康やQOLの向上の関係にもとづく専門的口腔ケア」「食べる、話す、といった生活の中の口腔機能」の観点から専門性を発揮し、多職種とかかわる必要があります。福岡医療団歯科衛生士群では、今回のとりくみ以降も、半年後にケアマネへの口腔ケア意識調査を行い、多職種参加の学習会を実施。1年後には今回の訪問介護事業所で、実践的な学習会も行いました。今後も継続したいと考えています。
別項)アンケートの内容
(1)要介護者に対する口腔清掃は必要だと思いますか?(→はい 94%)
(2)要介護者に対する摂食・嚥下訓練は必要だと思いますか?(→はい 79%)
(3)要介護者に対する口腔ケアは行っていますか?(→はい 36%)
(4)「いいえ」と答えた人に 口腔ケアができない理由は何ですか?
(5)「はい」と答えた人に 口腔ケアを始めたきっかけは何ですか?
(6)口腔ケアにかけられる時間は何分くらいですか?(→3~5分 67%)
(7)口腔ケアと肺炎の関連性について学習や指導を受けたことはありますか?(→はい 63%)
(8)口腔ケアを行っていて困っていること、知っておきたいことは何ですか?
(9)訪問時に「歯」や「口腔」に問題があるかも知れないという場面に出会うことはありますか?(→はい 44%)
(10)「ある」と答えた人に それはどのような時ですか?
(民医連新聞 第1700号 2019年9月16日)