目を見張る世界のヘルスケア技術革新 第27回国際HPHカンファレンスinワルシャワ デジタル化の課題と可能性を討議
5月29~31日、第27回HPH国際カンファレンスがポーランドのワルシャワで開催されました。全体で480人が参加。日本からは17事業所28人が参加しました。J―HPH代表団団長で、福岡医療団理事長の舟越光彦さんの報告です。
第27回HPH国際カンファレンスのテーマは、「医療におけるハイテク(技術革新)と人間的な触れ合いの調和を図る‥対話をすすめるためのデジタル化の課題と可能性」でした。このテーマは、高齢化、気候変動、グローバリゼーション、都市化、非感染性疾患(NCD)など世界的に激変する医療と公衆衛生の課題に対して、ヘルスケアにおける情報技術の活用が果たす可能性と問題点について議論しようと設定されました。
■ITを駆使した自己管理支援
5つの基調講演でテーマを深めましたが、世界のヘルスケアにおける技術革新の展開には目を見張るものがありました。例えば、スペインのカタローニャ地方では地域の医療情報データを突合し、地域保健情報システムをつくり、ER、外来、入院と施設が異なっても一貫した医療データの使用が可能であることが紹介されました。台湾からは、ITを駆使した糖尿病の個人の自己管理支援の経験が紹介されました。さらに、英国のNHS(国民保健サービス)では、高齢者の孤立対策として情報技術を利用して遠隔診療を行うことで、人間的な触れ合いを築いている経験も紹介されました。おおむね、情報技術による恩恵を紹介する講演が多かったのですが、最後の基調講演の中で、情報技術から疎外されている人たちにはこうした恩恵が届かないことが指摘されました。情報技術格差が健康格差を増幅しないためにも、技術革新の問題点を今後深めることが必要と感じました。
今回のカンファレンスで特筆すべき点は、東葛病院の大野義一朗医師が企画した「戦争と平和」のワークショップの開催です(別項)。オタワ憲章でも規定されているように、ヘルスプロモーションの前提条件である平和について国際的に交流し、議論する画期的な機会となりました。また、東京保健生協の小沢信幸さんの、健康なまちづくり運動をすすめる「すこしお」(減塩)のとりくみが、優秀ポスターの表彰としてグリーンリボン賞を受賞しました。
来年は6月3~5日に韓国のソウルで開催されます。久しぶりのアジア開催で距離的にも参加しやすいので、多くのみなさんに参加してもらいたいと思います。
■強制収容所も視察
カンファレンスの前日、マイダネク強制収容所の視察も行いました。この強制収容所は、ナチスドイツによるポーランド人、ユダヤ人などの虐殺を目的につくったもので、アウシュビッツに次ぐ規模のものでした。現地ガイドによると15万人が殺害され、遺体を焼却した灰は、現地や一部はドイツへ輸送され肥料として利用されたということでした。この狂気には言葉も出ないほど驚きを感じました。
ここで唯一希望を感じたのは、授業の一環だと思いますが、現地の高校生たちが収容所の施設を真剣に見学している姿でした。
戦争の狂気を学び、二度と戦争をくり返さない意思をつないでほしいと強く感じました。
HPHで初めて戦争テーマにワークショップ
戦争をなくすことが最高の治療法
東京・東葛病院 大野義一朗(医師)
日本が提案した「戦争と平和」のワークショップは、HPH国際カンファレンスで初めて戦争を取り上げた企画です。
報告は6本。原爆投下から74年たってもまだ終わらない被爆者医療(黄道勇医師、広島共立病院)、パレスチナ紛争の中での医療支援(猫塚義夫医師、北海道・勤医協札幌病院)、旧日本軍の毒ガスが戦後60年目に死者まで出した中国での被害調査(磯野理医師、京都民医連あすかい病院)などは、戦争による被害の残忍さと被害者を救うための懸命な医療活動を伝えました。次に、原爆電車を走らせる反核医師の会の活動(向山新医師、東京・立川相互病院)、意匠(いしょう)を凝らした憲法カフェ(大野聡美さん、東京・大泉生協病院・事務)の報告がありました。
チェシェルスカ医師(ポーランド)は、アウシュビッツのユダヤ人絶滅の効率化をめざすナチス親衛隊の医師の「医療」と、ガス室、飢餓、感染症、強制労働で次々に死んでいく人たちをいのちがけで救おうとした収容所のユダヤ人医師の「医療」を対比しました。
どの発表もよく練られていてわかりやすく、民医連の活動の多様性と国際性を示すもので、全体を通して「戦争犠牲者を救う最高の治療は戦争をなくすこと!」を確信できたワークショップとなりました。
(民医連新聞 第1697号 2019年8月5日)