安倍改憲と 参院選をめぐる情勢 一橋大学名誉教授 渡辺治さん 地域で共同の活動を 自民政治変える共闘に
5月17~18日に開いた全日本民医連第16回理事会で、一橋大学名誉教授の渡辺治さんが「安倍改憲と参院選をめぐる情勢」と題し講演しました。要旨を紹介します。
(文責・編集部)
安倍政権が発足してから6年半。改憲が焦点です。7月の参院選で、自民、公明、維新などが議席の3分の2を維持して改憲へ突きすすむのか、安倍政権を退陣に追い込み改憲を止めるかが問われています。
安倍首相が憲法9条に新たに自衛隊を書き込むという改憲提言を発表したのは、一昨年の5月3日でした。それから2年。安倍政権は国会で改憲発議どころか、改憲案を憲法審査会に出せずにいます。市民と野党が改憲反対の声を広げてきたからです。
■2項削除を諦めた?
安倍首相は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とした憲法9条2項の削除をねらっていました。2項を普通に読めば、自衛隊は「憲法違反」となる。その自衛隊を維持・存続させるために「自衛隊は2項が禁止する『戦力』=軍隊ではない」と歴代自民党は主張し続けてきました。
しかし野党第一党の民主党(当時)は改憲反対に舵を切り、改憲に反対する市民と野党の共闘は発展し、改憲強行は難しい。
そこで出てきたのが、9条1項2項は残したまま新たに自衛隊を明記する案です。公明党が主張していた「加憲」を取り入れ、維新が訴えてきた「教育無償化」も盛り込んだのです。
■自衛隊明記の危険性
安倍政権は自民党改憲案を6月中に憲法審査会に出したいと考えています。「自衛隊を保持する」と憲法に書き込む。これで自衛隊は「合憲」となります。
自衛隊を憲法に明記すれば、第1に戦争法の合法化、全面発動に道を開き、米軍の軍事行動への協力・加担はさらにすすみます。
第2に、9条1項、2項を死文化し、自衛隊は「戦争する軍隊」になります。自衛隊は2項が禁止する軍隊ではないと証明するために、災害救助などにとりくみ、国民に容認されてきました。しかし他国の軍隊は災害救助などしません。自衛隊が海外での軍事行動をするようになれば災害救助どころではなくなります。
第3に、日本社会全体も変わります。戦争も軍隊も否定する憲法を持つ日本には、軍刑法も軍法会議も軍事秘密保護法もありませんが、徴兵制の可能性が生まれ、平和運動はとりしまりの対象となります。
第4に軍隊とセットの緊急事態条項の危険です。国民の自由を弾圧し戦争に動員する体制をつくります。
■「政治を変える」運動を
安倍首相は野党を懐柔・分断し、憲法審査会を動かすために、「野党は改憲の議論すら避けている。無責任だ」というキャンペーンを広げてきます。
自民党は草の根からの改憲世論づくりにもとりくんでいます。昨秋、全ての小選挙区支部に改憲推進本部を設置するよう指示。統一地方選、参院選では改憲を重点項目に掲げました。
参院選で3分の2の議席を獲得し、秋からの国会で改憲発議、国民投票に持ち込むねらいです。野党が圧勝し、自公の議席を大きく後退させましょう。
小泉政権の構造改革以降、顕著だった“自民離れ”に対し、安倍政権は湯水のように公共事業に予算をつぎ込み、支持を回復してきました。しかし、いくら公共事業に予算をつぎ込んでも、崩壊した地場産業、地域経済は復活しません。
有権者の関心は、「安倍政治を変えてくれるかどうか」です。自民党政治を変える共闘へすすまなくてはなりません。
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運動のカギは「地域」です。安倍政権を倒しても自民党政権が続く限り、辺野古新基地建設も消費税増税も原発推進も社会保障解体も止まりません。「自民党政治を変える」の声を地域から上げ、幅広い人たちとの共同をすすめましょう。
軍事化と社会保障解体に一貫して反対し、地域にねざして活動してきた、民医連の出番です。
(民医連新聞 第1693号 2019年6月3日)