病院の外へ “医療”を届ける 競輪場で健康チェック 富山協立病院
「病院の外に出て、医療にかかりにくい人とつながろう」。そんな思いから、富山協立病院は市内の競輪場で健康チェックを始めました。医療スタッフによる出張健康チェックは予想以上に歓迎され、列ができるほどの盛況です。(丸山聡子記者)
3月15日、富山協立病院の職員5人と医学部の奨学生1人、看護の奨学生1人で富山競輪場を訪れました。ここでの健康チェックは2回目。「開運入場口」をくぐり、投票所(客が投票したり、レースを見たりするところ)の入口を入ったところで準備を始めます。「何調べるん?」「お金かかるんか?」。すぐに人が集まってきます。チェック項目は、血圧、血管年齢、握力、骨密度です。
この日はアンケートも準備。喫煙や飲酒の状況、健診や受診の傾向などを聞き取ります。「競輪は15歳の時から。40年続けたタバコはやめたけど、お酒は毎日」(62歳、男性)、「タバコは2日で1箱。前立腺の手術をしてから、真面目に通院している」(76歳、男性)、「仕事している時は健診があったけど、今はないから心配」(72歳、男性)などと話が続きます。
「レースがある日はだいたい来ているよ」と話す女性(80歳)は顔なじみも多く、次々に声をかけられます。「女性は少ないから人気者なの(笑い)」。数年前に脳梗塞を患い、今は定期的に通院し、血圧の薬を服用しています。
亡き夫は漁師でした。「稼ぎの悪いダンナでね。私がゴルフ場のキャディーなどで働いて、息子2人を育てた」と言います。ひとり暮らしの今、競輪場に行くのがささやかな楽しみです。
「家では1人だけど、ここに来れば少しは体を動かすし、みんなに会えるから」と言います。お金を使い過ぎないように、出かける前に必ず数え、帰ったらまた数えます。「たまに勝っても、友達とおいしいもの食べて、出かける前より減っちゃうよ」と苦笑い。
外に出向く
競輪場での健康チェックを始めたきっかけは、看護師長の高嶋峰子さんが外部の研修で聞いた「ワンコイン健診」の話でした。自営業者やフリーター、主婦などを対象にしたとりくみです。
「パチンコ店など、普段、医療にかかることが少ないと思われる人が大勢いるところに出向いていると聞き、民医連や医療生協こそ行くべきだと思った」と高嶋さん。スーパーやイベントでの健康チェックはやっていましたが、地元にある競輪場での実施は考えたことがありませんでした。
高嶋さんは「富山は車社会で遊ぶところが少ない。“ギャンブルなんて”と後ろ指をさす風潮も強い。競輪場に通う人の思いや健康状態を知り、医療につながるきっかけをつくれれば」と言います。
初めて訪れたのは昨年12月。競輪場のスタッフが、暖房の効いた投票所にテーブルなどを用意してくれました。競輪場で働く女性は、「こういうとりくみは歓迎。場内での飲酒は禁止ですが、飲んでくる人も少なくなく、階段で足を踏み外したり、倒れたりして、救急車を呼ぶこともあるので」と。当日は、健康チェックを紹介するアナウンスも流してくれました。
歯がない人も
2回の健康チェックを終えて気になるのは、「歯がない人が多い」こと。高嶋さんは、「経済的に歯科まで手が回らなかったり、歯磨きの習慣がないなど、社会的に困難を抱えていることの現れかもしれません。そういう人が安心して遊べるところが競輪場しかないのでは」と懸念します。
医学部3年の邵(しょう)博文さんは、「怖いイメージだったが、話し好きな人が多かった。1日にタバコ3箱という人や歯がない人、競輪は15歳からやっていると話す人など、病院ではなかなか会わない人と話せた。病院の外に出向くことも大事ですね」と話します。
この日、健康チェックを受けたのは約50人。アンケートは36人から集めました。9割超が60代以上で、男性が94%。職業では、無職が64%、自営業が17%、会社員は5%でした。競輪を始めた年齢は10代、20代で6割近くを占め、長期にわたって競輪場に通っていました。タバコを「吸う人」は24%で「吸わない」(33%)「やめた」(43%)より少なく、飲酒傾向も「飲まない」(45%)が「毎日飲む」(33%)を上回りました。「健診を毎年受ける」(67%)、「定期通院している」(55%)などは半数を超えました。
この結果について高嶋さんは、「健康に気を遣い、医療にかかっている人が予想以上に多かった。医療にかかっていない人は、健康チェックを受けにくかったのかもしれません。少数ですが、『病院には行かないと決めている』とか『健診で引っかかったが受診してない』と答える人もおり、何らかの形で医療につなげていきたいです」と話します。今後、アンケート内容の改良も重ね、健康チェックを続けていく予定です。
(民医連新聞 第1691号 2019年5月6日)