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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 子どもの性教育 京都民医連中央病院産婦人科 「誕生にありがとう」から始まる“生教育“

 産み育てることが困難な母親をささえ、子どもの未来を守りたいと、京都民医連中央病院では子どもたちに、いのちの教育としての性教育を行っています。第14回看護介護活動研究交流集会での助産師・岡田裕子さんの報告です。

 子どもたちを取り巻く環境には情報の氾濫(はんらん)、いじめ、デートDV、ひとり親世帯、貧困、虐待など、さまざまな問題があります。日本の子どもは、先進国に比べ自己肯定感が低いとも言われます。
 当院にも、京都市の入院助産制度を利用する非課税世帯や生活保護利用世帯、住む家がない、冷蔵庫に何もないほど経済的に困窮する母親も多く来ます。SNSの普及などでパートナーがわからない母親も増加。望まない妊娠をした10代の中期中絶や若年妊婦、精神疾患を抱えるシングルマザーなど支援すべき事例が多々あります。
 安心して産める環境整備のため困難事例では妊婦の時期から、SWや地域の保健センターと連携。こうした事例が多く、生まれた瞬間から、人生が決まってしまう現実を痛感する日々です。
 そんな中、当院では10年にわたり助産師が子どもたちに性教育を実施。2018年度は小学校1(2年生、6年生)、中学校7、定時制高校1校で行いました。
 性教育は月経や精通、避妊、性感染症を連想されがちですが、私たちが行うのは「生教育」です。

■伝え方に工夫こらし

 誕生の素晴らしさを伝える授業では、わずか0・1ミリメートル(紙に開けた針穴の大きさ)の受精卵から6~7週間後に心臓が動き始める(米粒大)までを、実際に胎児の心音も聞きながら教えます。「いのちの力」が発揮される妊娠経過です。
 分娩経過は、陣痛の力を借りて胎児自身が回る「回旋」を教え、胎児が生まれるために持つ力、「自分の力」を強調。「お母さんががんばったから、あなたがいる」とは言いません。ひとり親家庭や親のいない子、虐待を受けている子もいるからです。思春期の不安定な子どもに響くよう、伝え方には注意しています。
 同時に、「人間はひとりでは生きていけない。みんなに大切にささえられて生きている」とも伝えます。大切に抱かれて育ったこと、誕生の瞬間の家族の喜びを、出産のDVDや、赤ちゃん人形の抱っこ体験を通じ学びます。
 「死」も考えます。「人は生まれた時に『生まれてきてくれてありがとう』、亡くなる時『今までありがとう』と言われる、ありがとうで始まり、ありがとうで終わる人生を送りたいもの」。父を看取り、当院で出産したある母親の言葉を伝えています。
 感動は記憶に残るため、感動的に届くよう年齢に合わせた言葉選びや、話し方の技術も磨いています。子宮に入る分娩体験やDVDなど、視覚、聴覚、触感も利用して効果的に伝えています。

■「知りたい」に応える

 生教育は継続的に行うことが重要です。幼児や小学生に、どうやって生まれてくるのか、いかに大切にされてきたかを伝えてはじめて、自己肯定感が育まれ、中学や高校での生殖や性感染症、避妊の学びを、自分のこととしての行動につなげられます()。
 子どもたちは、自分がどうやって生まれてきたか、に興味津々。ある中学校は、6割が生活保護や就学援助など何らかの支援を受ける家庭の子で、普段じっと話を聞くのが苦手な子もいますが、私たちの話を真剣に聞く様子から「知りたい」が伝わってきます。
 感想からも「ありがとうで始まり、ありがとうで終わる人生を歩みたい」「いのちを大切に今を精一杯に生きたい」「いのちは性行為からしか始まらないから責任ある行動をしたい」など、こちらの思いが伝わっていると感じます。
 性教育は学校や教師による差が大きく問題を感じます。厚労省が最低限求めるカリキュラムを無機質にこなす学校も少なくありません。とりくみ当初は「性教育は寝た子を起こすようなもの」「男子は子宮という言葉も恥ずかしい」と話す教師もいました。
 しかし、ていねいに説明し回を重ね、今では学校からの「これは伝えないで」はなくなりました。教師も子どもへの「性」の伝え方に悩んでいます。専門職の助産師の話は、子どもたちに響きやすく学校にも好評で、異動した養護教諭から新たな依頼が来るなど、当初に比べ件数も増えました。
 近隣の小学校にも生教育活動を広め、「いのち」について地域とともに考えたいと思っています。全ての母親が整った環境で安心して産み育てられるように支援することが第一の、また永遠の課題です。良いお産は子どもの生教育の第一歩。「産んでよかった」と感じ「生まれてきてくれてありがとう」を言えるように母親を支援し、一人でも多くの子どもの未来を守るために、活動を続けます。

(民医連新聞 第1690号 2019年4月15日)