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民医連新聞

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平等な介護を実現する! 中国帰国者の利用者とともに 高知・デイサービス せいきょうやまもも

 新入職員のみなさん、民医連へようこそ。民医連は、無差別・平等の医療と介護の実現をめざし、全国で奮闘しています。「生まれた場所や育った環境が違っても平等な介護を提供する」。そんな思いを胸に、あの痛ましい戦中戦後を残留孤児として中国で生き抜き、日本に帰国した人たちと家族に、当たり前の介護を届けている仲間がいます。高知・デイサービスせいきょうやまもも(以下、「やまもも」)を訪ねました。(丸山いぶき記者)

 「你好(ニィハオ)(こんにちは)。请喝茶(チンフーチャ)(お茶をどうぞ)」。朝8時半、「やまもも」からは中国語の発音練習をする職員の声が聞こえてきます。あいさつや身体の部位を表す中国語を、音声教材に合わせ復唱。「身体の部位に疼(トン)をつけると、『○○が痛い』になります。入浴など場面別の中国語もあるので使ってください」と、施設長の田副(たぞえ)大輔さんが呼びかけます。日課の学習を終え、やまももの一日が始まりました。

中国語も飛び交う

 取材した水曜日は、3人の中国帰国者を含む14人がデイサービスを利用しています。お迎えに「走了(ゾウラ)(行こう)」と満面の笑みで応じたのは、帰国者の田中春子さん。自宅の市営住宅から送迎車に乗り込みました。車内では、同じく帰国者の松岡春江さんと中国語でおしゃべり。田副さんや山本優さん(介護福祉士)が片言の中国語で話しかけ、即席の中国語教室が始まります。松岡さんは日本語が堪能で、田中さんも半分くらいは理解できます。他の利用者も交え、車窓の花の名前や中国での思い出、家族など話題は多彩。「中国語を忘れちゅう」と土佐弁で言うと笑いが広がりました。
 「やまもも」では送迎車の事業所名や施設の案内表示も中国語。風水にもこだわった中国式の室内飾りが出迎えます。利用者はそれぞれの機能訓練カードでリハビリを開始。帰国者の訓練カードは中国語表記です。

やまももに通い表情変化

 田中さんは1988年に帰国。中国の資料から日本人であることはわかりましたが、親戚は見つからず、身元引受人を頼りに高知にやって来ました。「本当の名前も誕生日も年齢もわからないんです」と話すのは、娘(帰国者二世)の内山佳代さん。高知市の中国残留邦人等生活支援相談員で、市の通訳もしています。
 中国では休日は家族が集まり、にぎやかに過ごすのが当たり前。しかし、近所からうるさいと言われ、田中さんは家族を呼べなくなりました。公営住宅では、夫の入院中にたびたび、突然玄関を開けられ「おい! 中国人、出て行け!」と言われました。「やまもも」でも、あまり大きな声では中国語を話しません。
 以前、田中さんは別のデイに通っていましたが、当時は日本語を話せず、日本式の介護にも抵抗があり孤立。施設内で転倒しデイを拒否。夫の死と環境の変化も相まって認知症が進行し、家では無表情で怒りっぽくなりました。
 内山さんは、「ここに通うようになって、母は表情が変わった。利用者も職員もみんなやさしく、ちょくちょく話しかけてくれるから、自分の存在を感じられるんだと思います」と話します。

帰国者支援も民医連運動

 「激動の時代を生き抜き、帰国後も苦労してきた。そんな帰国者への平等な介護を、絶対にあきらめたくないんです」と田副さん。受け入れ当初、利用者の中には心ない言葉を投げる人もいました。しかし、職員の本気が伝わったのか、次第に減りました。
 綱領で無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす民医連の介護事業所として、「やまもも」では“その人らしく生きる”を大切に、一人ひとりの尊厳を守る介護と、誰もが平等に最後まで安心して暮らせる地域づくりを実践しています。田副さんは「帰国者支援のとりくみもその一環。それができるのが民医連です」と強調します。

日本の介護もっとよくしたい

 「やまもも」には、もともと中国語が堪能な職員はいません。藤原美保さん(介護職)は「中国語は難しいけれど、帰国者のみなさんが一生懸命だから、逆に力をもらっています」と話します。
 2年前に初めて帰国者を受け入れた際は、キーパーソンである利用者の息子(帰国者二世)が全く日本語を話せず、対応に困りました。広島県にある帰国者支援センターや高知生協病院に勤務する二世の職員に協力を仰ぎ、契約書や介護計画書を中国語で作成。次第にネットワークもでき、行政との協力関係もできました。
 「ここは本当によくやってくれる」と話すのは、高知県中国帰国者就労生活相談室の森洋子さん。月1回は帰国者の様子を見に「やまもも」を訪れ、わかりやすい中国語教材も紹介しています。帰国者への介護サービスは他の日本人同様に介護保険制度の枠内。しかし、田中春子さんのように言葉や習慣の違いから施設や他の利用者となじめず、利用を中断してしまう帰国者も多いといいます。
 NPOが運営する帰国者だけを対象にした施設もありますが、数が少ないうえ、「帰国者が日本の習慣や文化に慣れるためには、『やまもも』のように他の日本人と交流できる方がいい」と森さんは言います。生い立ちや言葉、習慣が違っても、「自分は“日本人”だ」というのが帰国者の共通の思い。施設長の田副大輔さんは「日本文化も中国文化もとり入れた、小さな社会を『やまもも』でつくりたい」と話します。

根本に民医連綱領

 おもてなし型介護ではなく、自立支援で意欲を引き出し、“その人らしく”生きられる「やまもも」の評判はひろまり、常に数十人が利用を待っています。帰国者支援は地元紙でも報道されました。田副さんは言います。「介護報酬は同じ。それでも地域の介護、日本の介護をよくしたい、との思いで他事業所や行政と連携し、地域にも積極的にかかわる。根本にあるのは、民医連綱領です」。

(民医連新聞 第1689号 2019年4月1日)