「総がかり」で守ろう いのちとくらし 被災者が前を向けるよう 国の責任で長期の支援を 熊本・甲佐町白旗仮設団地自治会長 児成(こなり) 豊さん
多彩な人たちと手を結び、総がかりで社会保障を守ろう―。今回は、熊本の白旗仮設団地自治会(甲佐町)自治会長・児成豊さんです。地震から1年半後に打ち切られた被災者への医療費免除制度の復活を求め、運動の先頭に立っています。(丸山聡子記者)
白旗仮設団地は、地震の2カ月後の2016年6月に入居が始まりました。丸3年になる今年6月末に閉鎖します。109世帯が入居しましたが、自宅を再建したり、災害公営住宅に移ったりして、残っているのは40世帯ほど。自力再建が難しい人たちです。
地震の前、私は築60年の家に妻と高齢の母と3人で暮らしていました。2度の地震で窓が壊れ、家は傾き、天井の間から空が見えました。ここではもう暮らせん、と思いました。この先どうなるのか、避難所では眠れない夜を過ごしました。
■仮設でささえ合い
避難所は物音一つにも気を遣う。仮設団地に移った時は、「トイレも風呂も好きな時に入れる、良かった!」と思ったものです。
しかし、暮らしていると色々と問題が起こります。街灯がなくて暗い、水はけが良くない、とか。個人で言っても解決しないので自治会をつくりました。
家にひとりでおれば、「なんで自分はこぎゃん目に」と落ち込みます。でも、みんなで集まれば、「私もそぎゃん」と言い合える。不安も少しは軽くなります。
それで、昼間は白旗食堂を開き、夜は男性向けに白旗屋台を出しました。知り合いができ、本音も出て、また顔を出す。そうやってささえ合ってきました。
■この先のために我慢
私たちのスローガンは「孤独死を出さない」です。8つの班をつくり、班長さんが手分けして住民に声をかけてきました。一昨年3月、声をかけても返事がない、様子が変なのでガラスを割って入ると、男性が倒れていました。ひとり暮らしでした。いのちを取り留め、仮設に戻ってくることができました。
別のひとり暮らしの男性も、インフルエンザによる高熱のため、部屋で動けなくなっていました。お金がないから、病院に行くのを我慢していたのです。
仮設では家賃はかからないけれど、災害公営住宅に移れば2~3万円の家賃が発生します。この先、お金がかかるとわかっているから、ギリギリまで我慢するのです。子どもを病院に連れていくために自分の通院をあきらめる親もいます。それで病気をこじらせ、入院する羽目になり、節約に節約を重ねて貯めたお金がなくなってしまう。こんな切ないことがありますか。
■「突き放す」のはやめて
国も県も「前向きに」「寄り添う」と言うけれど、被災者一人ひとりが前を向けるような支援こそ必要です。今すぐに医療費免除制度を復活してほしい。
ほかの仮設団地の人や民医連と協力して、医療費免除制度の復活を求める署名を2万筆以上集めました。仮設の仲間にお願いすると、「復活したらありがたい」と署名をしてくれました。
けれど、県議会はあっさり否決。「せめて非課税世帯の人だけでも」と要望しても、やっぱり否決です。議員たちは「寄り添う」と言いながら、やっているのは「突き放す」だけです。
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いま、災害公営住宅をつくったら「はい、それまでよ」と言う行政の態度がありありです。家賃負担が発生し、数年後には値上げの予定です。100円、200円と節約している被災者に対して、まるで悪代官のようなやり方です。
やはり、県や市町村まかせではなく、国がやらんといけん。住んでいる自治体によって被災者への支援内容が違うことのないよう、国の責任で被災者が前を向けるような支援をしてほしいと思います。
(民医連新聞 第1689号 2019年4月1日)