• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

民医連新聞

民医連新聞

介護保険 神奈川民医連が調査 デイケア減らした リハビリを我慢 利用料3割化 3人に1人に影響

 政府は昨年8月から、一定の所得(単身世帯で340万円以上)を超える介護保険利用者の利用料を3割に引き上げました。神奈川民医連はこのほど、その影響について調査。サービスを減らした人が17%にのぼったほか、利用者や家族の生活にひずみが生じているケースは3割におよんでいました。中には、サービスを減らした結果、状態が悪化し入院した人もいました。

 (丸山聡子記者)

 神奈川民医連は2月12日に記者会見を開き、調査結果を公表。会見で原弘明会長は、「3割負担になる人は富裕層と思われがちだが、実際には所得が基準を少し超えたボーダー層で、介護や生活に深刻な影響が出ていることが明らかになった。国の責任で影響調査をすべきだ」と指摘しました。
 調査は、訪問介護ステーションや居宅介護支援事業所、介護老人保健施設など神奈川民医連に加盟する51の事業所すべてで実施しました。利用者5484人のうち、利用料が3割負担となった人は109人で、全体の2%です。
 厚労省の試算では、3割負担は利用者の約3%、約12万人。民医連の事業所では低所得者が多い傾向があり、厚労省の試算より低い割合になったと見られます。
 男性は65%、女性35%で、平均年齢は81・9歳。要介護度は平均2・59でした。世帯別では独居と夫婦のみが合わせて約半数。介護サービスをもっとも必要とする世帯です。「未婚の子」と同居は約2割でした。

■医師が勧めたリハビリを断念

 3割負担の影響の有無を聞いたところ、「あり」と答えた人は32%。「利用するサービスを変更した」人は17%でした。
 深刻だったのは、84歳で要介護3の女性のケース。収入は月額平均で24万円超ですが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の入居費と管理費、生活費、3割になった利用料(4万8000円)を合わせると約30万円となり、収入を超過してしまいました。
 そのため、週2回のデイサービスを1回に減らし、2週に1回の訪問看護も中止したところ、歩行をはじめ全身状態が低下。やむなくサービスは元に戻したものの、現在は入院中です。今後、不足分の約7万円(月額)は、未婚の長男が負担することにしています。
 このほか、「デイケアを週3回から2回に減らした」(要介護4、85歳男性)、「レンタルのマットレスを返却し、布団を使用」(要介護1、77歳女性)など。単価の高い訪問看護を減らした人も目立ちました(表1)。
 今後、利用控えや見合わせを検討している人もいました。「ショートステイを時々利用していたが、今後は見合わせる」(要介護4、68歳男性)、「福祉用具の購入を見送った」(要介護1、87歳男性)などのほか、「主治医にリハビリを勧められたが、もっと悪くなってから、と利用しなかった」(要介護1、82歳男性)など、状態悪化につながりかねない回答もありました(表2)。

■利用者と家族の孤立招く

 見逃せないのは、サービスの利用状況に変更はないものの、生活面に影響が出ている場合です。「家族の生活費を切り詰めている」(要介護4、73歳男性)、「個人年金(民間保険)を解約した」(要介護3、93歳女性)などです(表3)。将来への蓄えを取り崩したり、家族が自分の生活を切り詰めている様子がうかがえます。
 同県連介護福祉委員会の長嶋理恵委員長は、「介護者の休養のためのショートステイ利用をやめたり、介護者の趣味をあきらめた、という回答もあった。3割負担になったことで利用者と家族がますます孤立する。この状態が続けば、利用者の状態悪化や介護をする人の負担増を招き、共倒れにもなりかねない」と指摘しました。


介護サービスの利用に抵抗感を抱かせる

川崎医療生協 溝の口ケアプランセンター

 神奈川の川崎医療生活協同組合・溝の口ケアプランセンターでも、3割負担になり、サービスを減らした利用者がいます。ひとり暮らしの男性Aさん(70代前半)は一昨年、脳梗塞で倒れ、それまでの自営の仕事ができなくなりました。要介護1で、在宅で訪問看護とヘルパーを利用しています。働いていた前年度の収入が一定額を超えていたため、3割負担になりました。
 訪問看護は週2回↓1回、ヘルパーは週4回↓3回に減らしました。それでも利用料は月3万円弱。収入は、年金月10万円程度と自分が経営していた会社からのわずかな役員報酬しかなく、サービスを減らしても、利用料負担は重くのしかかります。
 Aさんを担当するケアマネジャーの菊地ゆきさんは、「医療費の負担もあり、Aさんに3割負担の説明をした時は、絶句していました。Aさんは、『減らした分は自分でがんばる』と言いますが、食生活の乱れや人と会う機会が減ることが心配です」と言います。
 はじめのうちはサービスを控えたり節約することでやりくりしても、「長期におよんだらどんな影響が出てくるのか、恐ろしい。今後、介護サービスの利用そのものに抵抗感を抱かせてしまうのではと危惧します」と菊地さん。

■施設にいられなくなる

 同センター所長の疋田勝さんは、電話、訪問、診療所常設相談などで「医療・介護なんでも相談会」を行っています。最近の相談で特徴的なのは、相次ぐ負担増にともない、「この先、いくらあったら安心なのか」と、先々の不安を訴える声です。
 「有料老人ホームや特養に入ったものの、利用料や居住費が払い続けられなくなり、『施設を出たいが、家も処分しており、行くところがない』という相談です」と言います。介護保険の施設である特養ホームでも、3割負担だと1カ月の利用料は20万円を大きく超えます。入居時は、年金でまかなえると考えていたのに、収入は変わらないまま負担が増えるので、払いきれなくなるのです。
 再び在宅に戻り、サービスを受けるにも3割負担。安い有料老人ホームやサ高住に行き着く場合もあります。「安い施設だと、食事はご飯と味噌汁のみ、など、およそ介護とはほど遠い環境。入居してから短期間で亡くなることもあります」と疋田さん。
 「“命の沙汰もカネ次第”どころか、多少カネがあっても安心した老後は望めない、というのが現実です。誰もが安心して介護保険を使えるように、税金の使い方など抜本的な見直しが必要」と話していました。

(民医連新聞 第1688号 2019年3月18日)