働くもののいのちと健康を守る全国センター 設立20周年 すべての働く人びとの 健康権の実現を
民医連もその一翼を担ってきた「働くもののいのちと健康を守る全国センター」(以下、「いの健全国センター」)が、昨年12月に設立20周年を迎え、2月2日、記念シンポジウムを開催しました。
(丸山いぶき記者)
2月2日、東京都内で開催された「いの健全国センター」20周年記念シンポジウムには、110人が参加しました。福地保馬理事長があいさつ。続いて、3人のシンポジストが報告しました。
全労連国際局長の布施恵輔さんは「ILOにおける働くもののいのちと健康を守る活動の到達点と課題」を報告。世界の労働者がたたかいとってきたILO(国際労働機関)の国際労働基準を、日本で活用する重要性を訴えました。
龍谷大学の脇田滋名誉教授は、「韓国における働くもののいのちと健康を守るとりくみの最近の動向」を報告しました(別項)。
■感情労働にもとりくむ
田村昭彦理事長代行(全日本民医連理事)は、昨年12月の総会で確認した「設立から20年を迎えた『いの健全国センター』の目標と課題」を報告。「すべての働く人びとの健康権の実現」を目標に掲げることを宣言しました。
格差と貧困が拡大し、健康の不平等が進行しています。田村さんは、安倍政権が危険な「働き方改革」をすすめる中、過労死防止法成立以後も過労死が後を絶たないことや、外国人技能実習生の過酷な実態などを指摘。一方で、「一人親方」の救済を認めた建設アスベスト裁判にも触れ、「こうした前進も力に、人間らしく働ける社会をつくりたい」と語りました。
「いの健全国センター」は今後、交流にとどまらない政策づくりの活性化や、いの健「感情労働と健康センター(仮称)」の設立など、7課題にとりくみます。
田村さんは感情労働について、「感情を抑え、顧客や患者・利用者に対応する。メンタルヘルス悪化の大きな要因だ」と説明。雇用者の無理解で、対応が労働者個人に任されている現状や、医療・介護現場でのセクハラに、対策を求める世論がつくられつつあると紹介。「実態調査や研究を行い、国民的理解を得られるような政策提言をしたい」と話しました。
■運動の力に確信を持ち
質疑では、運動をどう広げるかが議論になりました。田村さんは「疾病概念は運動の力で変えられる。過労死をはじめ、個人の問題とされてきた疾病と労働との関係を明らかにしてきた。過去の運動や諸外国のとりくみに励まされながら、粘り強く運動を続けていく責任がある」と語りました。
韓国の「産業安全」運動から学ぶ
脇田 滋さん(龍谷大学名誉教授)
昨年の韓国は「産業安全(労働安全)」の1年と言われました。ムン・ジェイン大統領が推進を表明し、12月に産業安全保健法を全部改正。11月には大企業サムスンを相手に長年闘争を続けてきた労災の支援団体パンオルリムが謝罪を勝ち取り最終解決。韓国の労働安全保健運動の契機となったウォンジン・レーヨン事件(※)から30年目のことでした。
日本と韓国は、労働安全保健の問題で密接な関係にあります。日本で労災被害を出した設備が輸出され、韓国で同様の被害を出しています。ウォンジン・レーヨン事件もその1つです。
一方、運動面でも密接な交流があります。筋骨格系疾患では両国の労働医学者が交流。過労死防止運動では、日本の運動が大きな影響を与えました。ムン政権やソウル市政が行う感情労働者保護や、下請労働者を危険にさらす「危険の外注化」の禁止、元請企業の処罰強化には日本も学ぶべきです。
韓国では日本からも学び、専門家と労働者が共同し、科学的・医学的な実態調査から立証を重ね粘り強く運動。オリンピック時に外国メディアの注目を集めて政権に迫るなど、アイデアにも優れ、幅広い市民、労働団体の連帯と世論化、政治化を重視しています。日韓は共通課題の克服に知恵を出し合い連帯することが重要です。
※1988年、「ウォンジン・レーヨン」の労働者1000人余りが二硫化炭素中毒被害に遭った。以降、韓国で労働安全保健運動が活発化。医学、社会科学、法学専門の学生や医師らが被害者を支援し、緑色病院などが誕生した。
(民医連新聞 第1686号 2019年2月18日)