“65歳の壁”解消へ 障害者の尊厳を守る判決が確定 浅田訴訟高裁でも勝訴
岡山で昨年12月、障害者のいのちと尊厳、社会保障を守るたたかいにとって重要な判決が確定しました。障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)にもとづく障害福祉サービスを受けてきた障害者が、65歳以降は介護保険制度の利用を強制される、いわゆる「65歳問題」について争われた「浅田訴訟」で、一審に続き二審の広島高裁が、一律に介護保険を優先しサービスを打ち切った岡山市の処分を違法としたのです。岡山民医連事務局の大坂圭子さんの報告です。
6年近くにわたり1日も早く公正な判決が出されることを願ってきた重度障害者の浅田達雄さんにとって、待ちに待った日が訪れました。2018年12月13日、広島高裁岡山支部で「65歳になった障害者は介護保険優先とした岡山市が間違っている」との判決が出ました。3月14日の地裁一審判決に対する岡山市の控訴が棄却され、二度目の浅田さん全面勝訴です。
浅田さんは「年齢に関係なく人間としての生きる権利と平等な介護が保障され、尊厳が回復してとてもうれしい」と語りました。
2013年2月、65歳の誕生日を前にした浅田さんが、介護保険の申請をせずにそれまで受けていた障害福祉サービス(月249時間の重度訪問介護・非課税世帯のため無料)の継続を求めたところ、岡山市はすべてのサービスを打ち切りました。障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)7条にある「介護保険優先原則」にもとづく処分、との理由です。
この間、浅田さんはボランティアによる最低限の支援によってかろうじて生活を維持しようとしましたが、その後、やむを得ず介護保険を申請し、有料となった費用を負担してきました。65歳になったことで生活が成り立たず、負担を強いられることになった浅田さんは、同年9月19日、岡山市の処分取り消しなどを求めて訴訟をおこしました。
■サービス打ち切りは違法
今回の高裁判決は、一審に引き続き、岡山市の処分を取り消し、障害福祉サービスの給付を義務づけ、損害賠償の支払いを命じました。障害者自立支援法7条の解釈については、自立支援法と介護保険の二重給付を避けるための規定であって、岡山市の主張するような自由裁量がない縛られた規定ではない、としました。
その根拠として、介護保険と自立支援法は異なり、個別の状況(必要なサービスや費用負担の程度など)によって自立支援給付を選択する場合もあり、一律に介護保険を優先して利用するものではないこと、障害者自立支援法違憲訴訟の基本合意(2010年1月)で国は介護保険優先原則廃止の検討を約束したこと、調査によると自立支援給付を却下する自治体は6・4%(6自治体)に過ぎないこと、があげられました。
ボランティアの支援があるからと自立支援給付を打ち切ったことは看過しがたい誤りであり、自己負担のある介護保険給付を自立支援給付に相当すると判断するのは明らかに合理性を欠き、岡山市の処分は裁量権を逸脱しており違法である、と述べました。
■判決を新たなスタートに
岡山民医連は、「浅田達雄さんを支援する会」の一員として、岡山市が上告を断念し判決を受け入れるよう、大森雅夫市長や市議会議長、各会派へのFAX要請をよびかけ、とりくみました。その結果、12月18日の岡山市議会最終日、大森市長が「介護保険優先規定の解釈に関し市の主張が受け入れられなかったことは残念だが、浅田さんのさらなる負担の増加を考慮し、最高裁判所への上告を行わない」と報告。反省や謝罪はありませんでしたが、これで判決が確定しました。
本判決は、千葉県で争われている天海裁判など、同様の問題に成果を広げていく新たなスタートです。18年4月の障害者総合支援法への改正で始まった、介護保険の自己負担分を同法で支払う改善策も成果のひとつではありますが、「65歳問題」の根本的な解決のためには、同法7条改廃や介護保険の改善をまだまだ訴えていかなくてはなりません。また、判決の中で異なるものとされた、高齢者と障害者のサービスを一体にする「共生型サービス」にも、注意を払う必要があります。
浅田さんのガッツポーズと全国のみなさんの心強い激励を忘れません。これからも、障害者・高齢者のその人らしい生活をささえられるよう、とりくみをすすめていきます。
(民医連新聞 第1684号 2019年1月21日)