レポート カナダでの医療実践交流 民医連スタディーツアーinトロント(2018年9月23~30日)
昨秋、カナダでの医療実践を学ぶために、「民医連スタディーツアーinトロント」が行われました。山田秀樹団長(全日本民医連副会長)の報告です。
公正な医療をめざし 声あげる医療従事者
憲法9条、25条は アドボカシーの盾
日本のHPH活動を牽引する舟越光彦医師(福岡・千鳥橋病院)と、カナダでSDHとアドボカシー(人権擁護活動)にとりくむギャリー・ブロック医師。その偶然の出会いから、2017年に日本で行われたギャリー医師の2回の講演を通じ、カナダの実践への関心が高まりました。
今回の企画は、実践の現場を学び、私たちの医療活動に生かすために、次代を担う若手職員に参加を呼びかけて計画され、医師11人に加え、研究者2人など総勢17人が参加しました。ギャリー医師が20人近い講師陣を招き、濃密な企画となりました。
■日本の貧困ツールも紹介
初日は聖ミカエル病院のSDH委員会の活動が多職種から報告されました。弁護士との連携、所得保障担当スタッフなど日本にないとりくみも紹介されました。会場となった付属クリニックの受付に、国旗と並んでLGBTの旗が掲げられていたことが印象的でした。
2日目は、昨年のHPHカンファレンスでも講演したUpstream labのアンドリュー・ピント医師から医療政策へつなげるリサーチ活動とエビデンスのレクチャー。「政治家との共通言語はエビデンス」との言葉が印象的でした。舟越医師から日本の貧困ツール開発を紹介し、ディスカッションしました。
午後は、聖ミカエル病院でホームレス支援活動をしているアンドリュー・ボンド医師からレクチャーを受けた後、地域のまち歩きと3施設訪問。中でも、看護師からのホームレス支援の話は誇りに満ち、ハームリダクションの概念(健康被害や危険をもたらす行動習慣をやめることができないとき、害や危険をできるだけ少なくすることを目的としてとられる実践)と、感染予防と薬物過剰摂取死を防ぐための見守りと、安全に麻薬を使用できる場所の提供には、日本とは全く違う概念に参加者一同大変驚かされました。
3日目、ナイアガラの滝を見学する中休みをはさんで、4日目はアドボカシー、午後からカナダ家庭医協会で、次期カナダ医師会長のサンディー・バッハマン医師からSDHやアドボカシーと関連して社会的責任の概念についてのレクチャー。私から民医連の活動を紹介し、意見交換しました。
5日目は家庭医以外のとりくみとして、ウーマンズカレッジ病院で、公正な医療の提供をテーマにレクチャー、依存症への早期介入プログラムやトランスジェンダーの健康問題などが紹介されました。
■健康は政治の問題
5日間のレクチャーを通して「健康は政治の問題だ」「justiceとは公正を作るプロセスそのもの」「家庭医の専門性はアドボカシー」「家庭医が診療にとりくむのに困難な課題にはチームで対応することが大事」といったメッセージが心に残りました。
何より人権意識の深さと公正な医療をめざす真摯な姿勢、日常診療の中の疑問や患者のニーズを正面から受け止めて、チームで解決を図ろうとする姿勢は、大いに感銘を受けました。
医療の質に公正性をおいていること、職種を問わず、診療活動とリサーチ・エビデンスづくりが意識されていること、電子カルテの活用などシステムづくりができていることなど、私たちの課題も見えてきました。
■組織と人づくり
そのような土台の上にアドボカシーがあること、公正な医療をめざし、声をあげ、社会に働きかけることが医療従事者の社会的責任との意識を、教育を通じて広げ、組織と人づくりを行おうとする姿は、私たちと重なる姿でもありました。
ギャリー医師は、「カナダにも憲法9条、25条があれば、アドボカシーの盾になる」と言いました。改憲論議がされる現在だからこそわたしたちが守るべきものがはっきりしたとも思いました。
たたかうことはこれからも重要ですが、同時に、たたかい方(可視化からエビデンス作り、さらに発信力)を深めていくことも課題です。
(民医連新聞 第1683号 2019年1月7日)