相談室日誌 連載454 無低診につながった 友想いの夫とくらす妻(香川)
Aさんは八〇代の女性。同じく八〇代で要介護4の夫と孫夫婦とその娘の五人暮らしです。二年くらい前から夫の認知症が徐々に進行し、片時も目が離せなくなり、着替えやおむつ交換をするにもベッドがないため腰に負担がかかり持病の腰痛が悪化、ついに耐えられなくなり当院へ電話をかけてきました。夫は若いころ腕のいいテニスラケット職人で、収入も多く何一つ不自由ない生活を送っていました。しかし、人がよく、知人に頼まれて連帯保証人となり、知人の失踪で多額の借金を背負う羽目に。貯蓄や自宅の売却、年金担保でお金を借り、返済はできたものの財産を食いつぶしてしまいました。現在は年金担保融資の返済を差し引きわずかに残った年金が頼りの生活。年金額が満額に戻るまで四カ月かかるとのことで、当院の無低診判定会で、それまでは無低診の利用が必要と判断され、Aさんは無事手術、リハビリを受けることができました。
一年後、年金が満額に戻ったため無低診は終了。しかし、Aさんは受診のたびに「年金は元の額に戻ったけどどうしても支払わないといけないことがいろいろあって…。次の年金支給日まで待ってほしい」と言うことが多くなりました。手放した自宅の修繕費用でトラブルを抱え弁護士費用が必要なことや、同居する孫やその妻からお金を要求されていることがわかりました。生活保護は利用できず、虚弱なAさんだけでは夫の介護は難しく、どうしても孫夫婦に頼らざるを得ないため、お礼にお金を支払っていたのです。夫の施設入居を希望しても、過去の介護サービス利用料の滞納を理由に、ケアマネジャーから「支払い確約ができない状況では難しい」と言われ八方塞がり状態です。
友人が困っている状況を見過ごせず手を差し伸べるような優しい人がこのような苦しい状況に置かれるとは皮肉です。知人の借金を背負わされた時、せめて適切な法的対応を相談できるような専門家のかかわりがあったならと痛切に感じさせられました。
(民医連新聞 第1680号 2018年11月19日)