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民医連新聞

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生活援助が足りなくなる?! 訪問介護の生活援助に “回数制限”10月から

 一〇月から、訪問介護の生活援助の利用回数に上限が設定され、それを超えたケースは市町村への届け出が義務づけられました。認知症や独居など、家事をするのが難しい人たちの在宅生活をささえる生活援助。利用回数だけに着目してチェックを厳しくすれば、回数制限=利用抑制につながりかねません。現場の実態と問題点を探りました。
 (丸山聡子記者)

 「行政の担当者は『“回数制限”ではない。一定数を超えたものについて適当かを専門的に検討するものだ』と言います。しかし、サービス担当者会議で必要性を確認したケアプランを行政主導の別機関で検討するとなれば、ケアマネが萎縮するのは目に見えています」。そう憤るのは京都保健会介護事業部長の阿部未知さんです。
 「行政機関が個別のケアプランを点検するという大きなプレッシャーが働くことで、最初から回数を抑えたケアプランになってしまわないか、心配です」と阿部さん。すでに届け出義務化を見越して、生活援助の回数を規定数以内に収める動きも出ていると言います。

■生活をささえる頻回の援助

 厚労大臣が定める要介護度別の生活援助の回数は表1の通り。届け出を求める理由について厚労省は、「生活援助中心型サービスでは、必要以上のサービス提供を招きやすい」から、よりよいサービスを提供するために多職種による検証を行い、「必要な場合にケアプランの是正を促していく」と説明しています。
 生活援助の回数を問題視する動きは昨夏、財務省が「平均は月九回程度のところ、月三一回以上も利用する人がいる」と指摘したことがきっかけで議論が始まりました。これに対し、認知症の人と家族の会などは「在宅介護の実態とかけ離れている」として、回数を制限しないよう再三にわたり要望してきました。認知症で独居や老々介護の世帯では、一日二~三回の生活援助が在宅生活に欠かせないささえだからです。
 「必要以上に生活援助を利用している」という懸念が当たらないことは、厚労省が公表した調査からも明らかになりました。生活援助を月九〇回以上利用している事例を自治体が調査したところ、九六%のケースで「適切またはやむを得ないサービス利用」と判断されたのです。この調査では、利用者の八割は認知症で七割が独居。買い物や三食の調理と配下膳、服薬確認、掃除、洗濯などの生活援助を通して利用者の生活をささえていました(図1)。

■家事代行ではまかなえない

 配食サービスなど家事を代行する民間サービスは、利用者の生活をささえるには不十分です。阿部さんはこう説明します。「例えば認知症で独居の人の場合、配食サービスで弁当が玄関に届けられても、食べられるわけではありません。生活援助に入ったヘルパーが食卓に弁当を並べて食事の準備をし、席まで利用者を誘導し、食べるのを見守る。そうしてやっと食事がとれる。生活援助を一日一回にしたら、食事も一回しかとれなくなります」。
 実際、民間の配食サービスに切り替えたところ、十分に食事がとれなかったケースも。香川・ヘルパーステーションみきの夛田(ただ)真佐代所長は、「見守りの声かけもする業者でしたが、チャイムを鳴らしても利用者が出てこないので、玄関先に置いて帰ってしまったことがありました。ヘルパーなら家の中まで入れますが…。また高齢者向けの弁当であってもご飯が固く、ヘルパーが炊く柔らかいご飯のようには食べられない、という訴えもありました」と話します。
 これまで生活援助の時間は短縮されてきました。以前は一回だった訪問を二回に分けるなどして対応しているケースもあり、回数が多い理由の一つとなっています。京都・ヘルパーステーション吉祥院の谷口賢治所長は、「時間が短縮されるもとで、利用者の体調や好みを聞きつつ献立を考える余裕はなく、煮炊きする時間さえなくなり、レトルトや出来合いのものを温めるだけ、という現実もある」と苦悩をにじませます。
 生活援助を身体介護に切り替えたり、家事代行サービスなどでまかなおうとすれば、利用者負担は跳ね上がります。阿部さんは、「生活援助を頻回に利用している人の中には経済的に困窮している人も少なくないのです。デイサービスの利用料が払いきれないので、生活援助で在宅生活をつないでいる人もいる」と言います。夛田さんも、「デイを利用して外出の機会を増やそうとすると、すぐに利用料が限度額に達し、今度は生活援助の回数を減らさざるを得ない悪循環」だと批判します。
 阿部さんは、「高齢者の多くは、介護サービスを利用することを『人様の世話になっている』と引け目に感じ、すでに多くの我慢を重ねています。生活援助も削ってしまえば、取り返しのつかない状態まで悪化してしまう」と警鐘を鳴らします。

■“成果”によって予算配分?!

 一方で政府は今年度から、「高齢者の自立支援、重度化防止等に関する取組を推進するための交付金」を創設し、二〇〇億円を計上しました。“成果”を上げた自治体に優先的に分配します。いわゆる「インセンティブ」改革です。交付金の条件の中に、「生活援助の訪問回数の多いケアプランの地域ケア会議での検証について、実施体制を確保しているか」との項目があります。
 介護事業所の多くは介護報酬の低さに苦しみ、中でも訪問介護は担い手不足で、サービスの依頼があっても断らざるを得ない事態まで生まれています。交付金をチラつかせて、厚労省の政策通りに誘導するやり方は大いに疑問です。

* * *

 全日本民医連は、「保険あって介護なし」の事態がますます広がっているとして、中央社保協、全労連とともに、介護保険制度の改善、介護従事者の処遇改善等を求める請願署名にとりくんでいます。請願項目は「生活援助や総合事業など、必要なときに必要なサービスを受けられるよう制度の抜本的な見直しを行うこと」のほか、利用者の負担軽減、介護従事者の賃金・労働条件の大幅改善、サービスの削減や負担増につながる制度見直しの中止、介護保険財政に対する国の負担割合の大幅引き上げ―などです。


ローカルルールに注意!

 今回、届け出が義務づけられたのは「生活援助中心型の訪問介護」です。しかし千葉市では、生活援助のみの利用者に加え、「一回の訪問で、生活援助と身体介護を行うものを含む」とする通知を出し、現場は混乱しています。千葉市の通りにすれば、届け出が必要なケースは大幅に増えることになるからです。
 千葉民医連と全日本民医連医療介護福祉部で厚労省に確認したところ、「国が想定するのは、生活援助のみのケース。それ以外については、任意で求めることは自治体の判断で可能」との回答でした。他の自治体でも同様の対応がないか、注意が必要です。

(民医連新聞 第1678号 2018年10月15日)