第14回 全日本民医連 共同組織活動交流集会 in神奈川 記念講演 ヘイムス・アーロンさん 共同組織は孤独を治療する
全体会では、アメリカのセントルイス・ワシントン大学で医療人類学を専攻する大学院生のヘイムス・アーロンさんが「共同組織・健康へのつながり」と題し、記念講演を行いました。今年三月まで本紙で連載した「Borders時々透明‥多民族国家に生まれて」の筆者でもあります。要旨を紹介します。
(丸山いぶき記者)
私は二年ほど、文化人類学の視点から民医連に加盟する医療機関と共同組織を研究しています。共同組織の活動が、みなさんが思う以上に効果があることを伝えたいと思い発表します。
■文化人類学の視点
どこに住んでいても、病気は同じでしょうか? がんはがん、日本でもアメリカでも同じ。生物学的に単純なことにも思えますが、実は複雑な問題です。
「肩こり」を経験したことがある人? と聞けば日本ではほぼ全員手を上げますが、アメリカや中国では誰も手を上げません。「肩こり」は日本文化の中に存在します。しかも新しい病で、江戸時代に「肩がこりて」という病気の概念ができ、明治時代に「肩こり」という言葉が現れました。
どこに住んでも病気は同じ…じゃない! 文化で病気の定義は変わり、病気と健康のとらえ方も違ってきます。当たり前は文化の中に存在し、それを研究すると新たな発見があります。
民医連と共同組織を研究するようになったのは、民医連綱領の「共同のいとなみ」に、たくさんの「?」が浮かんだからです。高齢者の健康や生活、人間関係、民医連の病院や医療生協、友の会、町会、社会構造などを、サークルや班会への参加(参与観察)、往診同行(観察)、インタビューを通し研究し始めました。
■「普通」の病院との違い
元気すぎる子どもは注意欠陥・多動性障害とされるようになりました。かつて同性愛が精神疾患とされた時代もありました。今まで治療対象ではなかった状態が治療対象疾患になることを「医療化」、その逆を「脱医療化」といいます。
「普通」の病院は、健康教育は行っても基本は施設内で病を治すだけ。患者は治療を終えてもまた患者として病院に戻ってきます。まさに「医療化」の現場。孤独が原因で頻繁に病院に通う高齢者に対し、「普通」の病院は点滴や短時間の会話、家族への連絡、施設の紹介はします。でも症状は治しても、原因の原因、孤独は治しません。
一方、共同組織がある病院は、班会や趣味のサークルなどを紹介します。なんでも相談やボランティア活動が人間関係を豊かにし、孤独という社会的な問題を社会的に解決し、「脱医療化」ができるのです。
■まちづくりにも効果
社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)という暮らしやすさを計る統計指標があります。人間関係の密度が高く社会関係資本の豊かな地域では、絆が強く政治や教育にも熱心で、治安がよく助け合いも活発、健康も増進されます。
共同組織の班会やサークル、健康まつりなどは人間関係をつくります。無料塾やたまり場、使いやすいバス経路やエレベーターの設置は、参加していない人にも役立ちます。組織のつながりや数を力に行政への要求もでき、範囲は地域だけにとどまりません。社会保障や憲法九条を守る運動は国のためにもなります。
宗教や政治的な要素が強すぎると、派閥を生み逆効果になるので注意が必要ですが、共同組織の活動は社会関係資本をつくり出し、暮らしやすいまちづくりにも効果があるのです。
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「共同のいとなみ」とは、医療機関と共同組織がともにささえあうこと。研究を終え、共同組織こそがその中心にあると考えるに至りました。みなさんのご協力で研究できたことに、本当に感謝しています。
(民医連新聞 第1677号 2018年10月1日)