国保保険料値上げか、診療報酬引き下げか “国の先進事例?!”の奈良県では…
奈良県は今年四月に「第三期奈良県医療費適正化計画」を発表。その中で、「地域別診療報酬の導入検討」を打ち出しました。これは、全国一律の「一点=一〇円」の診療報酬ではなく、「一点=九円」など都道府県別に設定する、というもの。奈良県は、二三年度までの医療費目標を達成できなかった場合、地域別診療報酬の導入を検討する、としています。
地域別診療報酬は、高齢者の医療の確保に関する法律の一四条に規定があるものの、実際に適用した事例はありません。このたび、奈良県が全国に先駆けて提唱したのを受け、財政制度審議会は、国としての後押しと横展開を提言。骨太方針でも、「地域独自の診療報酬について、都道府県の判断に資する具体的な活用策の在り方を検討する」と明記されました。
■県が主導し医療費抑制
そもそも奈良県が二三年の県民医療費目標に掲げる数字は、国の推計値よりも四三二億円も低いもの。奈良民医連の菊池高波事務局次長は、「適正化という名の医療費抑制方針だ」と指摘します。国保の都道府県単位化と地域医療構想と連動し、県が主導して医療費を抑制していく計画です。
医療費目標を国の推計よりも四三二億円も低く設定した理由について、奈良県は「一六年度医療費が国推計値より二五九億円低く推移したこと」「国の推計のままでは、国保の保険料は跳ね上がり、県民に過大な負担となる」などと説明しています。しかし、医療費が低く推移している背景に、負担増による受診抑制や医療アクセスの困難さがあることは無視しています。一六年には、国保料滞納世帯は二万世帯を超え、国保加入世帯の一割におよんでいます。
また奈良県は「医療費適正化計画」の中で、国保の県単位化に伴い県内の保険料を二四年までに統一する、としています。そのために、これまで市町村が保険料の負担緩和のために一般会計から財源を繰り入れていた「法定外繰り入れ」の解消も指示しました。
■県民と医療機関を分断
こうした「医療費適正化」計画を断行し、それでも医療費目標を達成できなかった場合は―。県は、「統一国保料の値上げ」か「地域別診療報酬の見直し」で対応するとしています。菊池さんは、「県の計画には、県民に必要な医療を保障する社会保障制度として維持する、という姿勢は全くない。保険料の値上げVS診療報酬引き下げで県民と医療機関を分断しようとしている」と批判します。
見過ごせないのは、奈良県のとりくみを自民党や経済財政諮問会議が「先進事例」として評価し、全国展開をねらっている点です。
反対の声も地域からあがっています。奈良県医師会は、地域別診療報酬の導入に断固反対する決議を発表。奈良民医連と奈良県社保協は「統一国保料の見直し」と「地域別診療報酬検討撤回」を求める意見書採択の要請を市町村議会へ送ったり、訪問・懇談をすすめています。「国保税は高すぎる。貧しい人の目線で運営する国保にすべき」「町で国保病院を運営しているので、医療機関の経営が大変なことは承知している。党派を超えて地域別診療報酬の意見書は前向きに検討したい」と回答する議長もいます。
(民医連新聞 第1676号 2018年9月17日)
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