フォーカス 私たちの実践 タッピングタッチの実践 青森・あおもり協立病院 優しく触れることで認知症BPSDのある患者に安心を届ける
青森・あおもり協立病院のA回復期リハビリ病棟では、認知症にともなう行動・心理状況(BPSD)のある患者へのリハビリが効果的にすすまず、対応に苦慮することがありました。そこで、タッピングタッチの手法を取り入れた結果、その効果と課題が明確になりました。第一三回学術・運動交流集会での介護福祉士・舘山友佳さん、石塚栄子さんの報告です。
あおもり協立病院は一三三床の一般病棟と、回復期リハビリ病棟が二つ合わせて九〇床あります。入院患者の高齢化にともない、A回復期リハビリ病棟でも認知症を合併する患者が多くいます。その行動や心理状況(以下、BPSD)によりリハビリが効果的にすすまず対応に困ることがありました。
そこで、当法人内で開催された、川島みどりさんの「て・あーて塾」を受講し、「タッピングタッチ」を学びました。
日常業務として、認知症によるBPSDの症状がある数人の患者に、一~二週間、一五分ほど実施することになりました。
■心身の安定
タッピングタッチとは、臨床心理学者の川中一朗さんが提唱する、ゆっくり、優しく、ていねいに左右交互にタッチすることを基本としたケアのことです。長年の実践と、国内外のリサーチの結果、不安、緊張、ストレス、痛みが和らいだり、心身を安定させる脳内セロトニンが増えることが明らかになっています。
道具を使わず、誰でも手軽にできるため、東日本大震災の際には、被災した人へのケアとして避難所や病院などで注目されました。
〈事例1〉
Aさん、九〇代の女性。夕食前まで常に車いすで廊下を徘徊。タッピングタッチを行うと、「気持ちよくなった。ありがとう」「あー気持ちいい。体が軽くなった」などの発言がありました。途中で、うとうとすることもあり、実施した日は夕食前も落ち着いて過ごせるようになりました。
〈事例2〉
Bさん、八〇代の女性。不眠症で夜は一睡もしない日がありました。日中は「先生ー!」と大声で叫び、過去の手術の痕や背中がかゆいと訴えていました。夜間不眠だったため、タッピングタッチをすると、そのまま寝てしまうことが多かったです。時には、「暑くてダメだ」と拒否することも。不眠は続きましたが、大声で叫ぶことはなくなりました。
〈事例3〉
Cさん、八〇代の女性。幻覚をともなう不眠がありました。午後三時ころになると帰宅願望が強くなり、険しい表情で病院内を徘徊していました。タッピングタッチには快く応じ、「温かいね。気持ちいいね」と。数日行うと、「私もやってあげる」とスタッフを気遣い、背中に手を当てるようになりました。レクリエーションやリハビリにも積極的に参加し、だんだんと夜間も眠れるようになりました。
■スタッフにも変化が
タッピングタッチの実践の結果、三つの事例ともに徘徊や帰宅願望が治まるなどのよい結果になりました。また、ケアするスタッフ自身も手や体が温まり、患者の満足する様子を見て癒やされる、相乗効果が生まれました。
認知症患者は常に不安の中を生きているといわれています。一五分ほどのタッピングタッチを通してゆっくり優しく触れることで、自分が大切にされていると実感でき、不安からくるBPSDが落ち着いたと考えられます。
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日頃の業務を振り返り、安全面や機能回復に配慮はしていたが、ゆっくり、落ち着いて患者に触れる機会はなかったことに気づきました。安心を届けることで、住み慣れた地域でその人らしく過ごすための一歩となるように努めていきたいです。
また、拒否する場合は、患者の心身の状況を観察し、多職種と情報共有しながら日常業務に取り入れることが大切だと感じました。
(民医連新聞 第1676号 2018年9月17日)