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民医連新聞

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診察室から 忘れられない訪問診療

 私は初期臨床研修終了時より内科病棟に勤務しており、現在は毎週火曜日に所沢市にある埼玉西協同病院で午前の内科外来、午後の訪問診療と病棟の褥瘡(じょくそう)回診を担当しています。普段は川口市で診療をしていますが、同じ県内でもまた違った所沢市の地域性を感じられる、とても大切な一日です。
 今回紹介するのは昨夏に経験したエピソードです。八〇代の男性のAさんは、某大学病院で膀胱(ぼうこう)がんと診断され手術などの治療が施行されましたが、再発し積極的な治療ができず、西協同病院の訪問診療に紹介となりました。精神疾患で入院歴のある長男とアパート四階に二人暮らし。訪問時、部屋はモノであふれ、照明も消され空調設備もない状態でした。寝室に入るとAさんは汚れた衣服と寝具に包まれており、恐らく長期間入浴していない皮膚の状態でした。
 鎮痛剤と保湿剤を処方して経過をみることにしましたが、精神疾患をもつ長男から連日病院に相談の連絡があり、初回訪問診療から一週間後に臨時で訪問診療に向かいました。Aさんは一週間前と変わらず過ごしている様子でしたが、長男はパニックに陥っている状況でした。大学病院からの退院直後で、介護サービスもほぼ導入していない状態だったため、このまま訪問診療を継続しても解決しないと考えました。また、長男の状況にかんがみても入院管理が必要と判断し、西協同病院での即日入院を決めました。
 すぐに関係各所に連絡し手配は完了。あとは体動困難となっていたAさんの病院までの搬送ですが、自室が狭く車椅子も入らない状態。救急要請で対応するより、往診車で搬送するのがよいと即断し、アパートの入口ギリギリに横付けし、Aさんを背負って自室から運びました。真夏で汗だくになりながら、一刻も早く連れていくことだけを考えての行動でした。
 その後、無事に入院となりました。病院に到着後のAさんと長男の安どした表情と往診スタッフの達成感が忘れられない訪問診療の一コマとなりました。
 (草野賢次、埼玉協同病院)

(民医連新聞 第1676号 2018年9月17日)