半年で死者145人 緊迫する「ガザ地区」に医療支援 「パレスチナ医療奉仕団」猫塚義夫医師に聞く
民医連医師の猫塚義夫さん(北海道・札幌病院)は二〇一〇年、同僚の医療従事者たちと「パレスチナ医療奉仕団」を結成し、医療支援を続けています。七月、WHOの要請を受け、完全封鎖が続くガザ地区に支援に入りました。現地の状況や支援について猫塚さんに聞きました。(丸山聡子記者)
五月、UNRWA(国連パレスチナ難民救済機構)を通じてWHO(世界保健機構)からガザへの医療支援要請があり、医師である私が一人で向かいました。医療支援は今回で一〇回目。パレスチナ問題とは、一九四八年、イスラエルの「建国=入植」に伴い、パレスチナの地から強制的・軍事的に追われたパレスチナ人の帰還権をめぐる政治的な国際紛争です。
今回訪問した「ガザ地区」は一一年間にわたって完全封鎖されています。事態は緊迫しています。三月三〇日の「土地の日」以降、国境付近の五カ所でパレスチナ人が「金曜デモ」を開始。五月一五日、トランプ米大統領は在イスラエル米大使館をエルサレムに移転。これは、イスラエルによるパレスチナの軍事支配を認め、固定化するものであり、パレスチナ人は抗議の声を挙げています。
この平和的な行動に対し、イスラエル軍は実弾による攻撃を繰り返し、すでに一四五人超の死者、一万四〇〇〇人以上の負傷者が出ています。救護にあたる医療スタッフも三人が殺害されています。
■「不屈」を貫く人たち
七月三日、厳しい検問を通過してヨーロッパガザ病院に到着。非常に忙しく、金曜日の国境デモが行われる時間帯になると一時間に四〇人も救急搬送されてきます。
大きな特徴は下肢・下腿の銃創が多いことです。イスラエル軍が若者の足をねらって銃撃するからです。殺さない程度に下肢をねらい、行動の士気を下げるのです。多く使われるのは蝶型爆弾。最初は小さく、体内に入ると開いて回転し、身体の組織をえぐりとり、血管をつなぎようにもつなげない状態にします。医師も不足しているため、五割が切断に至ります。
私も国境デモに参加しました。救急車も配置。イスラエル軍が催涙弾を撃ってきました。実弾も飛び、乾いた銃声に慌てて後方に走りました。すぐ前方の若者が左顔面を撃たれました。イスラエルの行動は「虐殺だ」と感じました。
デモには若者だけではなく、女性やお年寄り、子どもも家族といっしょに参加しています。着飾った女の子に写真をせがまれ、一緒に撮りました。なぜデモに参加しているかと聞くと、「土地のため」と答えたのが印象的でした。
パレスチナとイスラエルの関係はまるで「石ころとマシンガン」です。しかし、パレスチナの人たちは何度撃たれてもまた国境デモに足を運びます。組織的に動員されるのではなく、個人の意思として。間違ったことには屈しない「本当の不屈」を学びました。
医療者も同じです。医師たちの給与は月三〇〇ドル程度。薄給で大家族を養いながら、劣悪な環境でイスラエルに抵抗する人たちを守っています。状況は厳しいのにとても明るいのが印象的でした。
■日本の私たちがすべきこと
二週間の予定の支援は一〇日間で終了。イスラエル軍が空爆を開始したからです。退避を決断する一方で、パレスチナの人たちを思うと胸が張り裂けそうでした。
最近のイスラエルは、トランプ政権の強い支持を背景にやりたい放題です。トランプ政権に同調し、イスラエルと武器の共同開発をすすめているのが安倍政権です。私たちがすべきことは、安倍政権にイスラエル支援をやめさせること、イスラエルを支援する安倍政権を終わらせることです。
一〇月には一一回目の訪問を予定しています。支援活動に関心のある方はぜひ連絡してください。hokkaido.palestine@gmail.com
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猫塚さんの医療支援報告会が東京都内で行われます。
九月二二日(土)午後二~四時/聖心女子大学4号館ブリット記念ホール/登壇者=猫塚義夫(医師・北海道パレスチナ医療奉仕団団長)、並木麻衣(日本国際ボランティアセンター パレスチナ事業担当)
事前申込必要。問い合わせは日本国際ボランティアセンター03(3834)2388まで。
(民医連新聞 第1675号 2018年9月3日)
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