フォーカス 私たちの実践 褥瘡と格闘した日々 香川・高松平和病院 発生の共通点分析し情報を共有
香川・高松平和病院では入院患者に褥瘡(じょくそう)発生数ゼロのとりくみを行っています。第一三回学術運動交流集会での作業療法士・藤田元さんの報告です。
当院には整形病棟と内科病棟、緩和ケア病棟があります。整形病棟は下肢の骨折や人工関節の手術後の患者が多く、骨折や手術をした箇所以外は比較的元気な人が多いため、他病棟に比べて入院後に褥瘡が発生することは極めてまれでした。しかし、二〇一五年七~九月に三カ月連続で、整形病棟入院中の患者に褥瘡が発生(八月は二人、三カ月間合計四人)。
そこで、当院褥瘡対策チームを中心とし、整形病棟での「褥瘡発生数ゼロ」を目標に掲げました。
背景として近年の高齢者増加に伴い、以前に比べ転倒による下肢の骨折後の手術が急増したことがあげられました。その多くは認知症を合併し、自力での体動が困難であったため、手術前から手術後にかけて長期間の寝たきりとなっていました。褥瘡が頻発した原因は、これら近年の入院患者の傾向の変化に対する対応策が不十分であったことだとわかり、具体的な対策を開始しました。
■職員の認識と現場の環境
これまで褥瘡が整形病棟で発生することは少なく、職員自身が褥瘡発生の危険性をあまり認識していませんでした。
そこで二つのとりくみを行いました。まず職員向けの学習会で、入院患者は褥瘡発生の危険があり、中には予防できるものが多くあることを看護師、リハスタッフに伝えました。二つ目は週に一度の整形病棟の看護師とリハスタッフの合同会議で、褥瘡発生の危険性のある患者の対応を必ず議題にあげるようにしました。
その結果、職員が褥瘡発生の危険性を認識するようになり、職員から褥瘡に対する予防方法の相談を受ける機会が増えました。整形病棟の褥瘡発生数は、対策後の約半年間はゼロに。しかし、対策開始後の約半年後に大腿骨骨折の手術後の患者の踵(かかと)に褥瘡が発生。
職員の認識に対するとりくみだけでは予防方法として不十分であり、これまでの褥瘡発生患者を振り返るといくつかの共通点があることに気づきました。
これまでの発生は入院前からほぼ寝たきりで中等度以上の認知症を合併した下肢骨折患者で、褥瘡は骨折側の踵周辺に発生していました。いずれも褥瘡は骨折後の安静位を保持するためのベッド上の足台の上で発生。足台が犯人だったのか! と気づいたのです。
当院のベッドマットは比較的褥瘡予防に対応していましたが、足台はスポンジクッションにシーツを被せた簡易な物でした。寝たきりで動けない患者でも、身体と接しているマットの機能が高いと、体重で圧迫される殿部や背中の血流障害はある程度緩和できます。しかし簡易クッションを置くと、マットの機能は無効となり、クッションの上に置かれていた踵にだけ褥瘡発生が集中したのです。
そこで病棟と相談し、体圧分散機能の高い下肢台の導入を検討し、購入に至りました。
また、過去には仙骨部で発生した患者もいたため、仙骨部の褥瘡対策のために、既存のマットより機能性の高いマットの導入も検討しリース契約にて導入しました。
その結果、認知症を合併した下肢骨折患者に対しては、術前から体圧分散機能の高い下肢台を使用することが、病棟で習慣化されました。仙骨部の褥瘡リスクが高い患者に対しても早期にマットの検討を行う習慣ができました。
整形病棟褥瘡発生数は二つ目の対策後、減少し、現在では約二年間発生していません。
■たたかいはまだ続いている
当院でも他病棟では褥瘡発生数はゼロではありません。しかし、患者にかかわる一人ひとりが「褥瘡は減らすことができる」と、日々のケアにあたることで目の前の患者を救えるのではないかと私は信じています。
(民医連新聞 第1675号 2018年9月3日)