ひめは今日も旅に出る (10)「暮らすように旅したベルリン」
ベルリン出発まであと2週間となったある日。日中の呼吸苦が出現したため、急遽(きゅうきょ)主治医と相談。人工呼吸器(BiPAP)を持参することにした。懸案だった長時間フライトは無事に過ごせたが、水分摂取を控えたツケは便秘となり、腹筋が弱くなった私を苦しめた。
日中でもマイナスの極寒だったベルリン。歴史や文化、芸術に触れながら、街をぶらぶら歩き、カフェで暖まり、電車に乗り、スーパーや雑貨屋をめぐり、ゆったりのんびり暮らすように過ごした。
お宿はバリアフリーのキッチン付きアパートメントタイプ。ダイニング、素敵なソファーもある広々としたお部屋で、車椅子の私もくつろげた。ランチはレストランでドイツの定番料理を味わい、朝と晩はスーパーなどで買い出し、友人の手料理。私のお気に入りはビール、ウインナー、チーズ、ヨーグルト。豊富な種類と安さ、その美味しさにクギづけ。現地の食を満喫した。
介助があれば立ち上がりと少しの歩行ができたので、トイレも時間がかかる以外は問題なし。こぢんまりしたレストランでも広い多目的トイレがあったり、公衆トイレの多くは有料だが多目的トイレは無料で、障害者への配慮を感じた。ホテルでシャワーチェアーを借りて、安全にシャワー浴もできた。
電車での移動も簡単。日本のような改札はなく、エレベーターひとつで地上からホームに到着。電車とホームの段差は介助があれば問題ない程度。自転車を持って乗り込む人、お散歩中のワンちゃんも電車のなかに!
そっと気遣ってくれたり、お手伝いしていただく場面にたびたび遭遇。一期一会の出会いに心もほっこり。そして夫同伴の女子旅のおかげで、感動や楽しさは大きく膨らみ、不安は激減した。9日間におよぶ珍道中のあれこれをわかちあえ、笑いの絶えない最高の旅だった。
しかし、ああしかし。帰国後に、これまでにない地獄の苦しみが私を待ち受けていた。
文●そねともこ。1974年生まれ、岡山県在住。夫・長久啓太、猫2匹と暮らす。2016年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断をうける。
(民医連新聞 第1674号 2018年8月20日)
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