西日本豪雨災害から1カ月 全国の連帯の力で生活再建を
七月六~八日に起きた西日本豪雨災害。岡山、広島、愛媛を中心に二二〇人が亡くなり、九人の行方が分かっていません。また避難者は岡山県二五〇〇人、広島県六四六〇人など避難生活が続いています(七月三〇日現在)。避難所での医療・介護相談などの支援活動を行っている岡山・水島協同病院の医療支援活動を取材しました。
(長野典右記者)
避難所で医療支援活動
避難生活長期化によるメンタル対策 災害関連死の予防急務
岡山 水島協同病院
真備歯科診療所の1階が水没
七月七日、真備歯科診療所の小坂勝己事務長は、大雨特別警報のため臨時休診を職員に知らせたり、予約キャンセルに対応するために早朝出勤しました。「八時過ぎから診療所の浸水がはじまり、二階のスタッフルームに避難、一〇時三〇分には停電。一三時に二階の窓から診療所屋根に移動、一七時過ぎに自衛隊のボートで救出」と経過を報告しています。
倉敷市真備地区(八八五一世帯)には三七〇〇世帯の倉敷医療生協の組合員が暮らしていましたが、今回の水害で組合員とその家族一〇人が亡くなりました。
いかされた災害対策訓練
倉敷医療生協は七日に豪雨災害支援対策本部を、八日には水島協同病院にも災害対策本部を立ち上あげ、ただちに避難所まわりを始めました。その後、藤田保健衛生大学から医師支援も入りました。
全国の民医連からの支援は、医師三七人、看護師一三人、薬剤師・事務計五人(いずれものべ人数。七月三一日現在)となっています。
里見和彦院長は、「日ごろの災害対策訓練での経験もいかされましたが、全国からの医師支援が避難所まわりに踏み出す決意を後押しした」と語ります。医師体制の困難から使用していなかった二六床も使い、断らずに入院患者を受け入れています。
水島エリアの小中学校には、真備町から約一〇〇〇人の避難者が九カ所の避難所に分かれて身を寄せています。倉敷市からの要請で、水島協同病院は第二福田小学校と第五福田小学校の避難所で、被災者の健康管理や日常生活支援を担当しています。
口腔ケア管理が課題
七月一八日は、八人の職員が第二福田小学校を訪問しました。避難所の体育館には、夜は約二二〇人いますが、昼間は仕事や自宅の片付けに行くため、約二〇人程度です。急きょ、冷房設備が設置されましたが、場所によって温度差があり、避難者は酷暑の中で厳しい避難生活を送っています。
同院入職八年目の中田芙美恵医師は、「普段の生活は避難所では困難なので、避難生活の長期化でストレスが心配」と話します。看護師二人、事務一人とチームを組んで避難者の健康状態について聞いてまわります。
また真備歯科診療所の佐々木学所長と歯科衛生士の片山浩子さんも参加し、歯科の相談に応じました。佐々木さんは「これからは口腔ケア管理が課題」と語り、歯科受診が必要な人には水島歯科診療所を案内していました。
早く仮設に入居したい
避難所には、自宅が水没し、避難生活を余儀なくされている菊永松子さん(八八)の姿もありました。菊永さんは、倉敷医療生協の運営委員で地域ボランティアもしています。八年前に夫が他界し、現在、ひとりぐらし。毎朝四時に起きて一時間散歩をし、二時間かけて新聞を読んでいた生活が水害で一変しました。「避難所の生活は一日がとても長い」「早く仮設住宅に入り、元の生活に戻りたい」と切実に語りました。
同院の丸屋純医師は「動かない状態が続くことで災害時に多発する生活不活発病やメンタルの対策が必要になってきます」と指摘します。また「東日本大震災でも言われた震災関連死など二次被害の予防が急務」といいます。
診療再開にむけ
真備歯科診療所は、二階のフロアまで浸水し、診察室の機器はすべて使用不能になりましたが、紙カルテを持ち出して干し、使える器具を滅菌処理しています。真備町の歯科医院がすべて被災し、現地での診療活動が停止しています。
倉敷医療生協では、避難所から自宅に戻る人への往診や臨時の診療拠点として、早急に仮設拠点を設置するなど歯科医療支援方針をつくり、診療再開に向け準備をすすめています。
広範囲で深刻な被害 被災地への支援と災害対策見直しを
藤末衛会長に聞く
全日本民医連の藤末衛会長は、発災から一週間後の七月一四~一五日、被害の大きかった岡山・広島両県を視察。今回の豪雨災害の特徴と、必要な支援と対策などについて聞きました。
倉敷市真備地域はたいへんな浸水被害を受けましたが、その被害は限局的です。二つの川に挟まれた地域の七カ所で決壊し、一瞬にして大量の水が流れ込み、多くの命が犠牲になりました。家屋の倒壊はほとんどありませんが、水に浸かった家財道具は大半を廃棄せざるを得ず、廃棄場所・方法など公的な支援が必要です。
岡山・水島協同病院は、二つの避難所の医療を担当しています。同時に、熱中症や片付け中のケガでの救急搬送が増加し、同院への医療支援が始まっています。
■同時多発の土石流被害
広島県内では、一〇〇〇カ所超で土石流が発生。山が扇状に崩れ、家屋に到達して倒壊したり、大量の土砂で交通網が寸断されています。四年前の安佐南区のような土石流被害が同時に多発しています。
広島民医連は七月七日早朝に対策本部を立ち上げ、佐々木敏哉会長を先頭に被害の大きかった地域や避難所をまわりました。一四日から坂町へ全国支援によるボランティアを開始。交通網が完全に寸断され、一週間近く何の支援も入らなかった地域です。県連の職員の実家が近くにあることから被害の大きさと支援の不足が判明しました。
現地に行きましたが、一九五〇年代につくられた砂防ダムが崩壊し、大量の土砂が集落全体に流入。一階の屋根よりも高く土砂が堆積していました。ボランティアが土砂をかき出していますが、土量がすさまじい上、猛暑で長時間の作業ができず、人手が足りません。民医連のボランティアは八月まで延長し、八月からボランティアセンターへの看護師支援も決まっています。
復旧作業はボランティアだけでは不可能で、多くの重機や人手が必要です。被害の大きさや復旧作業がすすまないことから住民には絶望感、うつ状態が広がっています。精神面も含め、被災者に寄り添った支援が求められています。
■豪雨も想定したマニュアルを
これまでの災害でも指摘されたことですが、家屋を含む私有財産に対する再建支援が貧弱すぎることは問題です。今の基準では、生活再建には足りません。避難生活の長期化が予想され、猛烈な暑さと感染症への対策は急務です。
豪雨災害時の避難のあり方の検証も必要です。真備地域で亡くなった人の九割は自宅で見つかり、平均年齢は七三・八歳です。高齢者や足が不自由な人が上階に上がれず、一階で水にのみ込まれたと見られています。避難のあり方によっては避けられた死もあったのではないでしょうか。
避難指示が出ても全ての住民が速やかに安全に避難できるわけではありません。住民がどのような状態にあり、どのような手段で避難するか。避難のための支援のあり方も考えなければなりません。
豪雨災害の約半月前に発生した大阪北部地震では多数の職員が出勤できず、携帯電話がつながらないために職員の連絡網が機能しないなどの事態が発生しました。地震と同時に豪雨災害も視野に入れ、各県連、法人、事業所での災害対策マニュアルの見直しや訓練にとりくんでください。
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このほか愛媛や京都でも、地元の民医連が被害の大きかった地域に入り、土砂の搬出などボランティアに力を入れています。
(丸山聡子記者)
西日本豪雨災害義援金の呼びかけ
「2018年7月豪雨」
災害義援金の振込口座
(1)中央労働金庫 本店営業部
普通 145325
全日本民主医療機関連合会
代表者 岸本啓介
(2)ゆうちょ銀行
00170―8―635438
全日本民主医療機関連合会
当座 〇一九(ゼロイチキュウ)店(019)0635438
(民医連新聞 第1673号 2018年8月6日)