フォーカス 私たちの実践 BPSDの原因分析 大分・デイサービスたかまつ 入浴拒否の原因探りサービスを均質化
大分・デイサービスたかまつでは、認知症で入浴拒否がある利用者の事例を通じ、その人への適切な対応方法の共有と、サービスの均質化にとりくみました。第一三回学術・運動交流集会での介護福祉士・平野亮さんの報告です。
介護分野では入所、通所を問わず、認知症の利用者のBPSD(周辺症状:中核症状から生じる二次的な症状)としての入浴拒否に悩むケースが多くあります。特に通所施設では入浴目的の利用も多く問題に。当デイサービスでも、認知症で入浴拒否が強いAさんの対応に苦慮していました。
一方、介護サービスには看護の処置のような明確な技術基準がない場合も多く、対応の仕方や介護者との相性などがサービスの質に影響します。しかし、介護者によってサービスの質や利用者のQOL(生活の質)が左右されるべきではありません。
BPSDは本人の性格や生活史、人間関係、環境などが絡み合って現れます。Aさんの入浴拒否の原因を調べ、誰が対応してもAさんが心地よく入浴できるプランを立て実践することにしました。
【事例】Aさん 八〇代 女性
アルツハイマー型認知症、糖尿病性網膜症(全盲)、気管支ぜんそく、難聴。傾眠傾向で、覚醒状態にもムラがある。独語が多くコミュニケーションが困難。手引きで歩行可能。BPSDとして入浴拒否、暴言、帰宅願望、徘徊、妄想など。毎回「風邪引いちょる」と入浴拒否。説得するほど拒否反応が強くなり不穏に。「やかましいんじゃ!」「だまして風呂に入れるつもりやろうが!」などと強い口調で立腹。
(生活史)父親は肺炎で、母親は四四歳で、兄弟も幼い時に病死。夫も若い頃に亡くし、日雇い仕事で苦労しながら一人で子育て。
(発言)「お風呂は好きや。小さい頃は竹瓦(たけがわら)温泉の砂湯で砂遊びしよった(別府出身)」「父が肺炎で死んだ。私も気管支が悪い」「弟妹の面倒を見よった」など。
■日頃の会話が鍵
Aさんの入浴関連動作を振り返りました(図)。普段の発言やきれい好きな性格、念入りに行う洗身、入浴後の満足気な表情からは本当は入浴が好きなのではないかと考えられました。しかし、全盲、難聴で状況がわからない不安や過去の経験が、入浴を妨げている要因と考えました。
(プラン(1))日頃のコミュニケーションで信頼関係を築く
当時、多くの職員はBPSDで攻撃的になるAさんを刺激しないよう、最小限の声かけしかしないようになっていました。しかし本人にすれば、突然知らない人から入浴を促される違和感しかありません。認知症の人は、生じた事実は忘れても「会話が楽しかった、安心した」という感情記憶は残るので、心地よい印象が残るコミュニケーションを心がけました。
盲目と難聴のために孤独を感じていたAさんにとって、話す相手がいることは安心につながり、覚醒を促すためにも重要でした。
(プラン(2))Aさんの気持ちを考え入浴の声かけを工夫
最も困難だった浴室までの誘導をスムーズに行えるよう、無理な説得、しつこい声かけは避ける、まずAさんの体調を気遣う声かけをし、Aさんの気持ちを受け入れる、自然な声かけ、声のトーンを意識、ユマニチュードの手法(主に「触れる」「立つ」)を用い、Aさんにとって心地よいコミュニケーションを取りながら行うなどを職員で統一して実践しました。
結果、覚醒状態が悪かったり、強引な誘導では「無理矢理風呂に入れられる」感覚になり、拒否反応が強く現れることが、職員の共通理解として定着。突然一方的に「お風呂に入りましょう」という声かけはNG。会話から入ると比較的スムーズに誘導でき、混乱しないよう一対一でゆっくり対応するとよい、などがわかりました。
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今回の事例で、Aさんの入浴拒否にも理由があり、それが生活史などとも関わっていることを知りました。情報を分析しプランを作成することで、職員間の対応を統一できました。認知症でBPSDの強い人にこそ信頼関係が大切で、Aさんにとってもコミュニケーションの改善が最も効果があったのではないかと思います。今後も、誰が対応しても均質なサービスが提供できるような職場環境をつくっていきたいと思います。
BPSDの強い人への対応は十分なアセスメント、認知症の理解、確かな介護技術など、介護福祉士としての専門的な知識が必要です。専門職としての視点を持ち、利用者さんのQOL向上のためのケアに努めていきたいです。
(民医連新聞 第1672号 2018年7月16日)