これでばっちり ニュースな言葉 米国離脱でどうなった? TPP批准を強行する安倍政権
5月24日、11カ国による環太平洋連携協定関連法案が、自民、公明、維新などの賛成多数で衆議院で可決。何が問題なのかNPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表の内田聖子さんが解説します。
NPO法人アジア太平洋資料センター
こたえる人 内田 聖子さん
米国の離脱後、日本が主導しまとめてきたTPP11は、今年三月に一一カ国による署名がなされ、最初に批准したメキシコに次いで日本でも、衆議院にてTPP11協定および国内関連法案が可決されました。二年前のTPP12審議では特別委員会が設けられましたが、今回は外務委員会(協定本体)と内閣委員会(国内関連法)のみで、それぞれ六時間ずつ計三日間の審議という驚くべき拙速さでした。
私は五月一七日、内閣委員会の参考人として出席しましたが、国会議員の間には緊張感はありません。「二年前に一度批准している」として今回も問題ないと思っているのだろうが、それは大きな誤りです。
まず、日本が二〇一六年一二月にTPP12を批准して以降、世界の貿易や投資をめぐる状況は大きく変わりました。米国のTPP離脱に始まり、英国のEU離脱、NAFTAや韓米FTAの再交渉、米中の「貿易紛争」も生じています。日EU経済連携協定は合意に達したとはいえ、国際的にも批判が高まる投資家対国家紛争解決(ISDS)について日EUの対立が解けず、ISDSを切り離しての合意に。また中国・インドを含むRCEP(東アジア地域包括的経済連携)交渉も停滞しています。
自由貿易の矛盾と課題が山のように出された二年間で、これにどう対応するか、広い視野を持って議論する必要があります。
凍結に過ぎない有害条項
TPP11自体にも問題は多く残っています。米国離脱後、マレーシアやベトナムなどの途上国・新興国は、米国の強い要求で入れられた医薬品特許に関する条項の停止や削除を求めました。こうした要求は、当初八〇項目もあったといわれていますが、交渉の早期妥結を最優先して交渉を取り仕切った日本政府は、各国の要求を次々と却下し最終的に凍結項目は二二項目となりました。
凍結項目の約半数は知的財産権にかかわる「有害条項」です。例えばバイオ医薬品のデータ保護期間や特許対象事項(「用途発明」を特許の対象にでき、医薬品特許のいわゆる「エバーグリーニング」を可能とする)、さらに新規医薬品の販売承認を得るために必要な試験データ(臨床試験データなど)を開発医薬品企業が最低五年間独占できる規定などです。
これらはWTOのTRIPS協定よりも強い知財保護を規定するもので、世界中の患者や医療関係者、NGOなどから「葬り去られるべき条項」と注視されてきました。
これらが凍結されたことの意味は大きいのですが、凍結はあくまで「米国が復帰するまで」の暫定的な措置に過ぎず、「削除」されたわけではありません。
米国復帰で元通り
TPP12の際、私たちは日本の国民皆保険制度や医薬品特許、共済などへの悪影響に警鐘を鳴らしてきました。TPPから米国が抜けたことで、これらの懸念はなくなってはいません。米国がTPPに復帰すればこれら懸念は元通りとなり、そうでなければ米国は二国間FTAを通じて日本にさまざまな要求をしてくるからです。現実的に、日米の経済協議は六月から本格的にスタートします。この日米協議は、自動車や牛肉の問題だけでなく、医薬品分野も大きな問題となります。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、二〇一八年二月一六日、USTR(米国通商代表部)に意見書を提出し「スペシャル三〇一条報告書二〇一八」の中で日本を「優先監視国」に指定するよう要請しました。
PhRMAは二〇一七年の日本の新薬創出加算を「不適切かつ差別的な見直し」とし、日本企業に有利であり外資企業を公平に扱う義務に反すると厳しく批判。この問題は「日米経済対話の中で日本と提携していく」と予告しています。
直近の「外国貿易障壁報告書」の中でも、これまで通り日本の保険や共済に関して「貿易障壁だ」とする指摘があがりました。日本政府が明確に拒絶できるのかは極めて疑問です。
このように、米国がTPPに参加していた時よりも状況は厳しくなっています。TPP11の批准阻止に向けできることは限られていますが、同時に日米協議に関して、最大限の注意を払う必要があります。
※アジア太平洋資料センター 平等に生きられるオルタナティブな(今のようでない、もうひとつの)社会をめざし、世界から情報収集や発信、政府や国際機関へ政策提言活動などを行っている。
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(民医連新聞 第1669号 2018年6月4日)
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