フォーカス 私たちの実践 料理療法で介護予防 石川・小松みなみ診療所 生活の中にあった調理で認知機能の低下を防ぐ
料理は生活の中で繰り返される作業であり、自分で作ることは介護予防に有効です。通所介護における個別ケアとして料理療法を取り入れたら、利用者に大きな変化が現れました。第一三回学術・運動交流集会での、石川・小松みなみ診療所の介護福祉士の村中理紗さんの報告です。
小松みなみ診療所では月~金曜日まで、定員一五人で通所介護を行っています。管理栄養士を配置し、栄養バランスや嚥下障害を考慮した昼食を提供しています。
料理は生活の中で繰り返されているなじみの作業です。料理療法で役割を持ち、自信を呼び覚ますことで、認知症状の変化やコミュニケーションの増進を明らかにし、今後の支援につなげることを目的として取り入れました。
対象は、家族のためによく料理をしていた人です。三カ月間継続して料理活動を実施、料理療法個人評価表(表参照)を用いて評価しました。評価表は(1)表情、(2)参加意欲、(3)集中力、(4)発言、(5)他の参加者との交流、(6)包丁の使用、の六つの項目を1~5まで点数化し、すべての項目の平均点を月別評価として「見える化」しました。
■3カ月後の変化
【事例】Aさん 八〇代女性、要介護1、認知症高齢者日常生活自立度IIb。五年前まで現役で働き夕食の支度もしていました。数年前に認知症と診断され、内服治療を行うが本人が拒否し中止。短期記憶障害と引きこもりが目立ち、通所介護を利用することに。現在は娘宅で二人暮らし、自宅では火の心配もあり料理はしていません。
Aさんには、昼食の準備を手伝ってもらうことにしました。いっしょに料理をするうちに表情が明るくなったことから、多職種のケアカンファレンスを経て、管理栄養士が料理療法について調べ、個別ケアとして始めました。
料理療法を開始した月は、メニュー名を忘れたり、切り方をスタッフに聞くことがありました。皮むきの包丁さばきはぎこちなく、切り残しもありました。作業に集中しているものの、他の利用者との会話はありませんでした。
二カ月目に入ると、来所後キッチンへ行き、「することがあれば言ってください」と管理栄養士に声をかけるように。皮むきは切り残しがなくなり、切り方もそろってきました。一方、キッチンへ来る前に他のスタッフから別の声かけがあると、料理作業を忘れてしまうことも。他の利用者と話しながら作業できるようになりました。
最終評価の三カ月目は、スタッフから先に声かけはせず、メニューを伝えた後、どのように切ったら良いか考えてもらいました。メニュー名を覚えていないこと、切り方も忘れてしまいスタッフに聞くことは変わりませんでした。みじん切りや細の目など技術が熟達し、会話をしながら作業もできるように。管理栄養士が休みの日でもキッチンへ向かうなど、習慣化していることが分かりました。
Aさんは、料理療法を始めてから三カ月で朝のあいさつをしたり表情が明るくなったり、作業の習慣化や積極性、作業時間の短縮、周囲へ配慮ができるようになりました。服薬はせず、症状の目立った進行もなく、穏やかに毎日を過ごしています。
■笑顔が増え、生活に意欲
今回の料理療法で、病気や生活環境の変化で失われていた能力に的確に働きかけることで、扱う食材も増え、集中力が向上することが分かりました。作業を通して役に立っている自信と喜びを得られています。今まで培ってきた能力や歩んできた人生を自他ともに認めることで笑顔が増え、生活に意欲を感じるようになりました。
職員にとっても、観察力やケアの方法を考え、通所介護の役割を再認識する機会になりました。
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今は二人の利用者が料理療法を行っていますが、それを見た他の利用者も手伝ってくれています。
料理は数多くの作業を含むため、参加者それぞれの能力に応じた役割分担が可能です。このことは日常生活における役割を再認識し、自信の回復につながると考えられます。
(民医連新聞 第1669号 2018年6月4日)