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民医連新聞

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ひめは今日も旅に出る (5)「新しい旅をおもしろがる」

 ALSとの診断を受け、身体の不調の原因がやっと解明されてすっきりした。じつは不思議なくらいの安堵感を覚えた。
 思い通りに身体が動かないのに、検査を重ねても診断が下ることがなかった。そんな不安だらけの暗闇からようやく抜けだせる。気のせいでも、不摂生でもなく、晴れて病気だと説明できる。治療法はないにしても、今後の対処の仕方を研究したり、心の準備もできる。やっと一歩踏み出せる。晴ればれした気分だった。
 そんな私とは対照的に、「残念だけどALSだった」と大切な人たちに話すと、決まってみんな涙を流した。ふたりの妹たちは大泣きし、ごめんと謝る私に謝るなと怒った。受診を勧めてくれた友人も目が腫れるほど泣き、ユーモアあふれる書道の師匠も号泣。とにかく、みんなを泣かせてしまう。
 この経験が病の公表を一瞬躊躇(ちゅうちょ)させた。しかし、いずれ私にも夫にも日常生活に制限が生じる。ごまかしながらお付き合いできる病気でもなく、家に引きこもるつもりもない。これまで通り人生を楽しみたい。周りの方々の力をお借りしながら、心豊かに過ごしたいと考え、病を公表した。ただし、伝え方を口頭からお手紙に変更して、ゆっくり時間をかけて受けとめてもらうことにした。それでも、再会した時は涙がつきものだった。
 病気のことを話すことで、私はちょっとずつ心の整理ができ、だんだんと気持ちが軽くなっていった。入院中、遠方の友人が週末ごとに現れ、コーヒー片手にお喋り。泣いたり笑ったりしながらも、そのお喋りがいろいろなことに気づかせてくれた。
 私にとって、民医連で働くということは、削ぎ落とされてきた人間らしさを獲得し直す道程であった。未来の自分を模索しながらの学びと多くの出会いが、告知後の私を支えてくれていると実感する日々だった。新たな人生設計を余儀なくされたが、これから始まる新しい旅をおもしろがって歩もうと決めた。自分に言い聞かせるように、とにかくそう決めた。


文●そねともこ。1974年生まれ、岡山県在住。夫・長久啓太、猫2匹と暮らす。2016年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断をうける。

(民医連新聞 第1669号 2018年6月4日)