国民の意思を正確に反映しない 危険な国民投票法 改憲発議させてはいけない 森典男弁護士に聞く
森友問題や公文書の改ざん、自衛隊の日報隠しなどで安倍政権の支持率は下がっていますが、改憲の執念に変わりはありません。憲法改正には国民投票が必要です。そこで、国民投票法の問題を中心に森典男弁護士(ピープルズ法律事務所)に聞きました。(長野典右、代田夏未記者)
憲法改正になぜ国民投票が必要なのでしょうか
法律は原則的に国会の議決でつくられます。しかし憲法は国会、内閣、裁判所という国家権力を縛るものなので、主権者である国民自身がつくるものです。憲法制定権者は国民なのです。そこで憲法改正には国民投票が必須なものとして、憲法九六条に規定されています。その規定に基づきつくられたのが、憲法改正のための国民投票法です。
改憲の手続きはどのように行われますか
改憲の手続きには三段階あります(概略図参照)。
第一に憲法改正原案を国会に提出する手続きです。議員が原案を国会に提出するには、衆議院では議員一〇〇人以上、参議院でも議員五〇人以上の賛成を要することなどの要件が、国会法で規定されているだけです。
第二には、憲法改正を発議し、国民に提案する手続きです。憲法改正原案が国会に提出されると、両院の憲法審査会で審査の手続きが行われます。
憲法改正原案が両院の憲法審査会で出席委員の過半数で可決され、両院の本会議で総議員の三分の二以上の賛成で可決されると、国会が憲法改正の発議をし、国民に提案したことになります。
第三には、憲法改正の承認を決める国民投票です。憲法改正には国民の承認が必要で、国民投票で国民の過半数が必要です。
国民投票は国会の発議後六〇~一八〇日以内で国会の議決した期日に行われます。そして、賛成投票数が有効投票数の過半数を超えた場合に、国民の承認があったとされます。
国民投票法にはどのような問題があるのでしょうか
一つ目は、テレビやラジオでの有料広告の規制がないことです。賛成反対の意見広告放送は、投票日当日まで自由にできます。資金力のある側が、連日、CMや広告を流しマスコミを悪用するなどの懸念があります。憲法改正という「この国の形」にかかわることにお金持ちの意見が影響力を持つことは公平ではありません。公費によって、公平に意見表明できるようにする必要があります。
二つ目は、最低投票率の規制がないことです。投票率が低い場合に、憲法が求める「国民の過半数」が賛成したといえるかどうかです。たとえば投票率が三〇%だった場合、一五%を超える賛成で国民の承認があったと考えるのです。韓国、デンマーク、ポーランド、ポルトガルでは有権者の過半数、あるいは四〇%など、最低投票率について規定があり、国民投票自体に行かないという意思表示も積極的に賛成しているわけではないという国民の意思として、十分尊重しています。
三つ目は、憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票数の過半数を超えた場合に国民の承認があったとすることです。憲法改正という事の重大性を考えると、賛成数は全有権者の過半数と考えることが最も厳格な考え方です。少なくとも、無効票を含めた総投票数を基礎として、憲法改正に賛成する者が、投票した有権者数の過半数を超えるか否かにより決すべきです。賛成、反対以外のことを書いた票を、投票しなかったもののごとく排除するのは不当であり、無効票を投じた者は改正に賛成しなかったものとしてカウントされるべきです。
四つ目は、国民投票は国会発議から六〇~一八〇日以内となっていますが、これでは十分な国民的議論はできません。十分な考慮期間を保障すべきです。そのためには言論・表現の自由と国民投票運動の自由は最大限尊重されなくてはなりません。公務員や教育者の国民投票運動を禁止する規定は、言論・表現の自由を著しく制限し、大きな障害です。
3000万人署名を成功させる意義は
国民投票法は危険な法律です。だからこそ、改憲発議をさせてはいけません。発議させない運動を草の根からすすめていくために三〇〇〇万人署名を成功させる意義があります。政治家は世論を気にします。署名を広げ、対話をすることで世論も変化していきます。改憲勢力は国会で三分の二以上の議席を占めていますが、署名を集めれば、国民投票ができない状況をつくり出せます。署名で国民が声をあげ、政治を動かし、改憲発議を阻止できれば、憲法にある、個人の尊重など未来を志向する意義を持った次の運動につながっていきます。
(民医連新聞 第1667号 2018年5月7日)
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