1日目 運動方針案説明 岸本啓介 事務局長 いのちと人権の立場で守ってきた非戦の歴史を未来に引き継ごう
全日本民医連は、名護市長選挙支援を全国的な課題として位置づけ、五三一人、のべ一二九九人が駆けつけ奮闘しました。各県連からも、沖縄の仲間に心を寄せる意見が多数ありました。
稲嶺市政を継続できなかったことは大きな痛手ですが、選挙中でも名護市民の七割が基地建設反対でした。民意に沿って工事をストップせよ、と運動を強めます。一一月には沖縄県知事選挙が予定されています。基地建設を止めるまで奮闘する、この決意を総会で確認しましょう。
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スローガンに関して、「架け橋」の文言がなくなったことについて質問がありました。第四〇回定期総会以降、私たちは各地で架け橋の役割を果たしました。そこで結びついた力を広げながら、すべての職員、共同組織の仲間が憲法を守り生かす国民運動に、当事者として参加することを強調しよう、との提案です。
安倍首相は、一月二二日に始まった通常国会で改憲する決意で臨んでいます。会期延長も含めての発議、秋の国民投票も予測されています。改憲を止める大きな力として、「安倍九条改憲NO! 三〇〇〇万人署名」が全国でとりくまれています。地域や医療・介護の仲間にこの署名を広げ、目標を達成することを確認します。
憲法九条改悪を止めるには、自衛隊を憲法に書き込む危険性を伝え、現行憲法のすばらしさを広げ、憲法を学ぶ運動を無数に広げること。発議されても否決する国民の声をつくることが大切です。三〇〇〇万人署名はその軸。いまの国民投票法では、資金力のある与党や財界など改憲をすすめる組織が有利です。改憲を許さないためには、国会提出や発議をさせないことが決定的に重要です。
いま、民医連の全国到達は三〇万筆。運動方針案発表から一カ月で三倍に伸びました。五月三日までに各県連の目標をやりあげるアクションをすすめましょう。
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安倍政権の社会保障解体の狙いは、二〇一八年度予算案や診療報酬・介護報酬の改定に端的に示されています。
診療報酬は、自公政権の一六年間で給付費ベース三・四兆円も引き下げられました。日本の病院の六割以上が赤字経営を強いられています。超高齢化に向かう国がとるべき道は社会保障の充実であり、医療経営が成り立つ環境を整えることです。内容も、「ほぼ在宅、時々入院」の方向が鮮明です。七対一病棟の要件をさらに厳しくし地域包括ケア病棟に誘導しています。慢性期病床は、療養病床の縮小、医療度の高い患者のみを対象とし、さらに在宅へ追い出すしくみです。看護師による死亡診断も盛り込まれました。
介護報酬は、あいつぐ倒産と廃業、介護労働者の処遇悪化などが深刻になり、介護ウエーブや世論の声で、今回は〇・五四%のプラス改定です。しかし、現場の困難を解決する水準ではなく、次回の改定に向け、さらなる給付抑制、負担増の検討も合意するなどの内容です。全日本民医連は、介護報酬単位の決定を踏まえて影響調査を実施し、引き上げや制度改善に向けた運動を提起します。
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社会保障解体がすすむ中で、受け皿として「我が事・丸ごと地域共生社会」の政策理念が持ち出されました。地域の諸問題を把握・解決する主語は地域住民で、行政は連携するだけ。憲法二五条とは真逆の考え方に立ち、権利としての社会保障を否定しています。
生活保護受給者は、昨年一〇月時点で一六四万二九〇七世帯、年金が十分でなく生活困窮に陥る高齢者世帯が半数を占めています。生活困窮者の住まいの確保は、保証人の壁などがあり簡単ではありません。格差と貧困が広がる中で、居住の権利を保障する公的支援の枠組みが必要です。
こうした情勢認識から、まちづくりを共同組織とともにすすめることを重点課題としています。「我が事・丸ごと地域共生社会」に対抗し、安心して住み続けられるまちづくり、地方自治の実現をめざして奮闘しましょう。
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すべての年齢階層で貧困が広がり、非正規労働者の拡大により貧困が固定化している現状を示しました。私たちが把握する事例は氷山の一角だと踏まえ、医療活動への「アウトリーチ」の位置づけ、診察の場で貧困を発見し治療する、各職場でSDHの学習・見える化のための方法の導入、全職種が貧困治療のためのサポート方法を共有、事例検討の重視などを提起しました。民医連の医療観を継承し、無差別・平等の医療と介護の実現に欠かせないものです。
運動の課題として、無料低額診療事業の制度拡充、知らせる活動の強化などを提起しました。困窮者は地域にいます。民医連だけでなく医療・福祉関係者が連携して地域レベルで向き合うことが必要です。民医連内外で実施施設の拡大をすすめましょう。
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福島第一原発事故から丸七年。政府は福島を切り捨て、被害を無視した帰還政策をすすめています。被害の拡大と長期化の中で、原発の輸出、再稼働、新規建設をすすめる安倍政権は異常です。
国と東電の責任を追及した裁判で、群馬、福島で国の責任を認める画期的な判決が出ました。福島の生業訴訟で原告として証言した職員は、「原発事故をもう二度と繰り返さないためにも、原発事故が起きた福島に住み、生き続ける者の使命として、国と東電の責任を明らかにするため被害を訴え続けます」と、決意を語りました。
福島の現実の中にこそ、原発ゼロの理由があります。福島に連帯し、原発ゼロのさらなる新しいうねりを作り出しましょう。
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第四二期は、特に平和と人権、社会保障を守る国民運動の発展のために、地域で大きな役割を果たしました。また、「2つの柱」を日常の医療・介護活動の基本に据えたとりくみが前進しました。
全日本民医連に、「薬代や入院費で家計は大変苦しい。歯が痛くてもがまんし、子どもにもそうさせている。助けて」と連絡がありました。「貧困」とネットで検索すると上位に「全日本民医連、無料低額診療事業」が出たそうです。経済的事由による手遅れ死亡事例調査でも、「無料低額」で検索し民医連につながった事例、「保険証がなくても診察してくれる病院」と検索して診療所に来た事例があります。内科、小児科、精神科、産婦人科、保険薬局などが、貧困と疾病の関係を学会誌に投稿、掲載されました。
『歯科酷書』第三弾簡易版ができました。全国から寄せられた事例について、SDHで原因を分類しました。事例に分析を加え、運動にもする活動を強めましょう。
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「一県連一社会福祉法人を追求」の記述について。理事会は、さまざまな社会福祉事業の展開を積極的に検討していく重要性を主眼に提起しました。
しかし、一律に社会福祉法人の開設をめざす方針として受け取られれば、混乱を招きます。県連討議の報告を受け、理事会では趣旨にふさわしく補強・修正する意見が多く出ました。分散会での議論も集約した上で、理事会の見解を三日目の本会議で示します。
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熊本地震支援のとりくみを通じて、民医連の災害支援・医療活動を前進、発展させました。完成した『MMAT必携』には、熊本地震支援や全国の事業所の実践の英知が詰まっています。多くの職員がMMATに登録し、日常の医療活動として定着させましょう。
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前総会で医学生対策の強化を呼びかけ、各地の奮闘で現在二七九人が新たに奨学生となり、五〇〇人の奨学生集団の実現も間近です。第四二期は、新専門医制度を国民本位のものにする、せめぎあいの二年間でした。公表された専攻医数は都市部への集中が顕著となり、地域医療の崩壊を招きかねないものです。根底には絶対的な医師不足があります。
新専門医制度により、民医連の内外で後期研修医の流動化が加速しています。民医連内で継続して後期研修を行う比率は四八%に低下。問題を解決するために、民医連綱領を実践する医師集団の形成、持続・発展する働き方、全日本民医連として医師政策を作る、医師数増と地域医療の担い手としての医師養成を国民的な運動にするなど、課題を提起しました。
定着率改善が課題です。すべての職種が関わり、民医連の医師として育ちあう。重要なテーマとして、議論をお願いします。
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第二次安倍政権後の五年間で、一兆四六〇〇億円もの社会保障費の自然増分が削減されました。民医連の経営面も厳しく、資金面での困難を強調しました。
理事会は、福島民医連から要請を受け、郡山医療生協の経営困難に対して、対策委員会の設置を決定しました。理事会は必ずこの支援を成功させ、郡山医療生協の再生をはかります。
厳しい経営環境や医師体制などの中で、どの法人でも発生しかねない問題です。すべての法人、事業所が県連、地協に結集し状況を常に共有し前進することが重要です。困難な状況だからこそ結集を強め、地協機能を強める方向で理事会の運営改善も提起します。
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「おわりに」に記載した故・肥田舜太郎医師の言葉への共感が多数寄せられました。肥田医師は一九四五年八月、広島市内から戸坂村に病院を疎開させる任務に就きました。八月二日に分院ができましたが、六日の原爆投下後すぐに広島陸軍第一病院に駆け付け、その日から被爆者に寄り添って医療をやり抜きました。
医療活動をがんばり抜いても戦争、紛争、貧困が蔓(まん)延(えん)する社会であれば、健康権は守れません。私たちは、いのちと人権の立場から、二度と核兵器は使わせない、二度と戦争はしないことを誓い、守ってきました。その歴史を未来に引き継ぐことが問われます。
広島で総会を開いたことが誇りと確信になるよう、積極的な討論をお願いし、提案します。
(民医連新聞 第1664号 2018年3月19日)