これでばっちり ニュースな言葉 まだ原発に頼るつもり!? 「エネルギー基本計画」見直しの大問題
今回のニュース解説は、国の「エネルギー基本計画」の見直しについてです。福島で起きた原発事故をきっかけに、原子力に頼らないエネルギーのあり方を考え始めた人も少なくありません。ところが、今回の見直しは、そうした流れに逆行する内容だというのです。FoE Japan/eシフトの吉田明子さんの解説です。
国際環境NGO FoE Japan/eシフト
こたえる人 吉田 明子さん
二〇一七年八月からスタートした国の「エネルギー基本計画」見直しの議論が本格化しています。経済産業省の審議会「基本政策分科会」で主な議論が、並行して、新設された「エネルギー情勢懇談会」(同八月三〇日開始)で二〇五〇年を見据えた議論を行いながら、今年夏ごろまでに見直すとされています。
■原子力優遇の歪んだ議論
「基本政策分科会」と「エネルギー情勢懇談会」では、まずここ数年間の変化を確認したうえで、再生可能エネルギーや省エネ、原子力、化石燃料といったテーマごとに議論をすすめています。大きな問題は、いまだに「資源の乏しいわが国」という表現が繰り返され、原発事故の被害状況や原子力のコストについては過小評価のデータが使われ、「原子力は3E(環境、経済、安定供給)に優れる」という前提の議論が行われていることです。
さらに、審議会委員は、産業界や原子力や化石燃料に関係する研究機関のメンバーが多数で、消費者・市民の立場を代表する顔ぶれは、ごく少数であるというアンバランスもあります。
そのため現在の議論は、「原子力のリスクを国民にどう説明し理解を得ていくか?」「再生エネルギーもすすめるが限界があるため、原子力も維持する必要がある」「何もしなければ脱原発に向かってしまうので、原発を維持するための対策を取るべきではないか」といった方向なのです。
東電福島第一原発で事故が起きたことによって、原子力発電の被害やリスクが浮かび上がりました。あわせて、電力が自由化され電力会社間で競争が起き、原子力は民間企業が経済合理性に基づいて維持・推進できる電源ではないことが明らかになっています。
「だからこそ国の主導と国による支援が必要だ」と、電力業界や一部の産業界からは、「エネルギー基本計画に原発の新増設・リプレース(建てかえ)をも書き込むべき」という声まであがっています。
■私たちが向かうべき方向
原発は、事故のリスクがはかりしれないだけでなく、平常運転時にも放射能汚染や被ばく労働を伴います。東電福島第一原発事故の被害・苦悩はいまだ続いています。また、パリ協定を受けて脱石炭・再生可能エネルギー社会へと向かう世界の動きに逆行し、日本が四〇基以上もの石炭火力発電の新設計画を抱えていることも大きな問題です。
しかし日本でも、現実は変化しています。震災を契機に省エネのとりくみはすすみ、照明や空調の高効率化もすすんでいます。建築物の断熱や効率化の分野では、今後さらに大きな余地があります。
エネルギー消費量は二〇一一年以降すでに減少に転じています(図)。また二〇一四年以降は、原発がほとんど稼働していないにも関わらず、温暖化ガスである二酸化炭素の排出量も減少しています。省エネルギーと再生可能エネルギーの進展がその理由です。
再生可能エネルギーは、二〇一二年の「固定価格買取制度」の導入で大きく伸びています。大企業主導のプロジェクトも多いものの、注目すべきは自治体や市民、地元企業など、地域が主体となっているプロジェクトです。
再生エネルギーは地域分散型エネルギー社会への転換の大きなカギを握っており、持続可能性と地域主導を重視してすすめれば、もはや日本は「資源に乏しい」どころか、各地に「ゆたかな資源と可能性があふれている」のです。
■市民の声は反映される?
世論調査などでは「脱原発」「再稼働反対」の声が推進を大きく上回り、 原発推進への転換は簡単にはできなくなっています。このことは審議会でも課題にあがっています。この声を国に無視させないよう、さらに大きくしていく必要があります。資源エネルギー庁でも「意見募集」を始めました。一つでも多くの声を届けましょう(期間は、一月九日~エネルギー基本計画のパブリックコメントの実施日前日まで随時。同庁HP「意見箱」で)。
参考サイト:どうする? これからの日本のエネルギーhttp://ene-rev.org/
FoE Japan:脱原発や気候変動、森林生態系保全、途上国における開発問題などにとりくむ環境NGO
http://www.foejapan.org/
eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会):脱原発にとりくむ団体・個人のネットワーク。政策提言や世論喚起を行う
http://e-shift.org/
◆募集◆
とりあげてほしいニュースも、リクエストして下さい
メールmin-shinbun@min-iren.gr.jp
(民医連新聞 第1662号 2018年2月19日)
- 記事関連ワード