お寺でカフェ?! 地域の力で居場所づくり 岩手・仁王ケアセンターすみれ
岩手・盛岡市内に、二〇余りの寺が軒を連ねる古い通りがあります。通称「寺町通り」。ここに建つ専立寺(せんりゅうじ)で毎月「ケアラーズ 寺町カフェ」が開かれています。企画は、盛岡医療生協の仁王ケアセンターすみれの職員たち。介護職員がお寺でカフェ? 訪ねてみました。(丸山聡子記者)
一月一三日、今年最初の寺町カフェが開かれました。この日の盛岡市の気温は昼間でも氷点下。雪が残る寺の前で職員が呼び込みをします。「無料開催中」「お気軽にどうぞ」と書いたボードを首から提げ、道行く人に声をかけます。ケアセンター前やお寺に張り出したポスターを見て初めて参加した人など一九人が集まりました。
■父ちゃんの話聞いてほしい
カフェがオープンするのは、第二土曜日の午後一時から三時過ぎまで。毎月テーマを決めて約一時間の“講話”を聞き、その後はお茶やコーヒーを飲みながら講師に質問したり、雑談したりして過ごします。盛岡医療生協の医師ら職員による医療や介護のテーマに続き、最近は暮らしの話題や経済ネタまで多彩にとりあげています。
この月のテーマは「遺品整理」。遺品の整理業を営む坂本和芳さんがケースを紹介しながら、「遺品は、他人には“ガラクタ”でも、本人が生きている時は“生活用品”。生きた証です」と語ると、参加者は大きくうなずきました。
坂本さんは冒頭、戦争の話をしました。原爆で亡くなった人数、戦死した兵士数、空襲などで命を落とした一般市民の数などを紹介し、「戦争ほどひどいものはない。好きなことはできない、食べることさえおぼつかない、命さえ落とすかもしれない時代を生き抜いてきたのが今の高齢者であり、遺品を残す世代。それを知ってほしいし、戦争は二度と起こしてはならない」と語りかけました。
痛む足をかばいながら参加したのは、鳥澤マサエさん。すみれのデイサービスに通っていた夫は、一年余り前に亡くなりました。「家では話し相手がいない。ここに来ればおしゃべりができる」と、毎月顔を出します。「職員さんに、『お父ちゃんはああだった、こうだった』って聞いてもらいたいんだよ。お父ちゃんも空の上から、『母ちゃん、またすみれの人としゃべくってんな』と笑ってんじゃないかなぁ」。
■元気な顔が見られる
すみれは、認知症のデイサービスとグループホーム、ケアプランセンターを運営しています。寺町カフェは二〇一六年五月にオープン。それまで「男性介護者の会」などを不定期で開いてきましたが、民生委員も務める専立寺の住職が場所を提供してくれる事になり、定期開催になりました。
センター長の小笠原康さんは、「利用者の多くは、在宅か施設かのギリギリのところで生活しています。介護を担う家族の負担は心身ともに大きい。奮闘する家族をささえる力になれれば、と考えました」と話します。
カフェを始めるまで、利用者の家族と話すのはあいさつや連絡事項程度。カフェで顔を合わせるうちに、「職員」と「利用者家族」の関係を超えて、雑談も悩み事も話せるようになってきました。
すみれデイサービスの介護職・飛鳥早苗さんは、「利用者が亡くなると、家族とつながりが切れてしまう場合も多い。鳥澤さんもあまり話したことがなかったけれど、カフェでいろんな話をするようになりました。顔を見ると、今月も元気で来てくださった、とホッとします」と話します。
夏に事業所が行う「すみれまつり」も寺の敷地で行いました。そして一二月二四日は本堂で「クリスマス会」(!)。ご本尊の前で職員総出でハンドベルの演奏を披露しました。
■これが“地域包括ケア”かな
専立寺の僧侶・日野岳史乗(ひのおかふみのり)さんは、「お寺は地域の力で成り立っています。足を運ぶのが盆や正月だけではもったいない。寺という空間を利用して、地域の人が集まって楽しいことをできたらと思っています」と話します。本堂でのライブや古着マーケット、社会福祉協議会と協力して、子ども向けの寺子屋塾も始めました。
この地域は古い家が多く、空き家や高齢者の独居も目立ちます。小笠原さんは言います。「自分たちだけで地域の問題を解決するのは不可能。だからこそ、もともとあった地域の力と新参者の自分たちが、つながりを結び直していくことが大事なんだと実感しています。それが“地域包括ケア”なのかなぁ」。
(民医連新聞 第1662号 2018年2月19日)