フォーカス 私たちの実践 小児の虫歯対策 兵庫・生協なでしこ歯科 育児の悩みに寄り添い子どもの虫歯防ぐ
小児歯科は、歯のライフサイクルの始まりの時期を担当します。この時期に虫歯予防の重要性を伝えることは、生涯を通じたセルフケアの確立につながります。兵庫・生協なでしこ歯科小児歯科では、虫歯の治療とは「虫歯の原因をなくすこと」と考え、子どもの生活上にある虫歯の原因を探り、予防するために、それぞれの保護者に合わせた予防指導を提案しています。第一三回学術・運動交流集会での、歯科衛生士の山本理恵さんの報告です。
■治療は 「原因をなくすこと」
小児期は虫歯になりやすい時期です。同歯科小児歯科では、一人の患児に対応する歯科衛生士を決めておく担当歯科衛生士制で、信頼関係を築きながら継続的な予防を行っています。この方法は歯科衛生士のやりがいにもつながっています。
診療の流れは、初診の後、「母親教室」を受講してもらいます。ここで虫歯になるしくみや適切なおやつの食べさせ方など、生活の中に虫歯の原因があることを学んでもらいます。治療終了後には、担当の歯科衛生士が患児の口腔の状態に応じたリコール(定期健診)を行います。二〇一六年度は、のべ四二〇〇人のリコールを実施しました。リコールではカウンセリングを中心に行います。例えば、次のような指導をしています。
【事例】Aくん
二歳八カ月の時に検診希望で来院した男児。初診時、四本の臼歯の咬合面に虫歯があり治療。二カ月後のリコールで、新たに臼歯部の隣接面に虫歯を認める。プラークは少なく、一日三回、仕上げ磨きを行っていた。
一~二歳に虫歯がよくできる上顎前歯部はきれいで、臼歯が生えた二歳後半から咬合面に虫歯ができたことから、二歳後半に虫歯の原因となる生活の変化があったと考えた。また、臼歯隣接面の虫歯好発時期は三歳半だが、それより早く短期間に虫歯ができており、原因の発見と改善が急がれた。
一日の生活を聞き取ると、おやつは少量だが回数が多く、牛乳を一日一リットル飲んでいること、就寝時間が二四時と、遅いことが判明(図)。母親の考えを探るため、Aくんの生活面について質問すると、意外な答えが返ってきた。
―夜、寝るのが遅いのはなぜ?
↓「大好きなパパが帰るとテンションが上がって寝ない」。
―飲む牛乳の量が多くない?
↓「ごはん(食事)を食べないから栄養面が心配。牛乳は大好きだし良いかと思って」。
―ごはんを食べないのにおやつを与えるのはなぜ?
↓「体が小さいのが気になる。好き嫌いも多い。早産で生んで申し訳なくて食べられる物は何でも食べてほしい」。
母親はAくんの食が細く体が小さいことを心配していた。子が順調に発育するよう解決法を探す懸命さが感じられた。
そこで、「朝もう一時間早く起きる、牛乳の量を一日四〇〇ccに減らす」の二点に絞ってアドバイス。ねらいを午前中にお腹を減らし食事の量を増やすことに定めた。
■1回きりの指導では…
歯科衛生士の仕事は虫歯の原因を取り除くこと。Aくんの虫歯の原因はおやつの回数が多いことにあり、一般的な指導ならこれを減らすことになります。しかし、私たちは保護者の一番の不安を軽くすることから指導を始めました。小児歯科では、様々な育児の悩みに出会います。障害のある兄弟がいる、育児放棄など、虫歯どころではない家庭も。そんな場合、一回の指導では効果がありません。
小児歯科の衛生士には、育児の悩みに共感し、その悩みに答えられる引き出しを増やすことが求められています。子どもやお母さんの変化・成長に合わせて、虫歯予防のプロとして合理的な指導を提案し、長期的にとりくむ姿勢も大切です。また、子どものあるなしにかかわらず、どの衛生士が担当しても質の変わらないアドバイスができるように、経験の差を埋める学習会も重ねています。
(民医連新聞 第1660号 2018年1月22日)