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民医連新聞

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Borders 時々透明 多民族国家で生まれて (19)警察(2)

 再び大学院に戻り、文化人類学の博士課程で研究対象を「日本の高齢社会と民医連」とした。また家族とセントルイスに住むことになり、懐かしい町を息子にも経験させるのが嬉しかった。
 住んでいる町から車で20分の所で事件が起こった。芥川龍之介の「藪の中」 のように、視点によって現実が違い、真相が見えない事件だった。コンビニで万引きした疑いで、白人の警察官が街頭で黒人の18歳の少年に声をかけた。100円ほどの葉巻2本の小さいことだった。警察の言い分では、少年は怪物のように襲ってきて、銃を奪おうとした。そこで警察官は少年に12回発砲したという。最後の弾が少年の頭に当たった。警察官が声をかけてから少年の命が絶たれるまでわずか90秒だった。彼は2日後に短期大学へ進学する予定だったそうだ。
 白昼、銃声を聞いた地域の人たちは、すぐ集まった。彼らの警察への溜まった怒りはじきに暴動になった。数人の警察官がやって来たが、膨らむ人混みの中で動けなかったという。少年の遺体は道端にうつ伏せのまま厳しい夏の太陽の下で1時間放置された後、やっとシートで覆われ、取り調べが始まった。
 あの日から約1年、セントルイスは緊張感に包まれた。デモが多く、暴動で焼かれた店が何カ所も出た。しかし、この事件に対する意見は人種によって異なった。調査によると多くの白人は、「少年は不良だったから射殺は自業自得だ」と考えた。一方、黒人の大部分は、「警察が常に黒人のコミュニティーをハラスメントや迫害する背景の中で、差別的な警察官が少年に攻撃的な態度をとり、殺した」と考えた。歴史を振り返ると、そういった事例がたっぷりあるからだ。
 事件の後、息子には小学校で噂が立つ前に説明しておいた。黒人が日常的に差別を受ける実態から話し始めた。黒人のコミュニティーでは、「飲酒運転」ならぬ「黒人運転」という言葉が行き交う。違反の証拠無く運転手が黒人だという理由で、警察が頻繁に検問するのだ。黒人の親が息子に必ず教える「話」がある。「警察は差別的な目で黒人男子を見るから、命令に即座に従わない、あるいは変な動きを見せたら撃たれるかもしれない」という内容だ。
 僕が日本で職務質問を受けた時、緊張はしたが、撃たれる心配はなかった。在留カードがなければ拘置所に連れて行かれ罰金を払うが、命がけの問題じゃないはずだ。しかしそれが日常的であれば、きっと怒りはわく一方だろう。


文 ヘイムス・アーロン 東京在住のユダヤ系アメリカ人。セントルイス・ワシントン大学院生、専門は人類学。1977年生まれ、ネブラスカ州育ち

(民医連新聞 第1660号 2018年1月22日)

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