創立65周年 民医連のDNA 患者と医療者、治療は二人三脚 結成半世紀の患者会 ―――石川・みのり会
2018年は全日本民医連が結成されて65周年、「民医連らしさ」に目を向けます。今回のキーワードは民医連の医療観である「共同のいとなみ」について。石川・城北病院には結成から半世紀になった糖尿病の患者会があります。会員は200人、糖尿病で同院に通院する人の4人に1人が加入しています。結成当時は現在ほど治療法は確立しておらず、医療者は患者さんとともに手探りですすんだことが、会の50年を振り返る中で明らかになりました。(木下直子記者)
待合室に外来患者さんの姿が残る土曜の昼下がり、城北診療所の一角で糖尿病患者会・みのり会の定例役員会が開かれていました。軽口をたたきあいながらお弁当を食べ、明るい雰囲気で話がすすみます。最近の活動報告や今後の企画について協議しますが、二〇一七年が会の結成五〇周年の年だったことを差し引いても、活発に活動しています(下)。
みのり会の活動
おしゃべり茶ろん…毎月第2金曜日。お茶を飲みながら日本糖尿病協会の月刊誌を勉強、莇医師が解説。栄養士、看護師、リハスタッフ等も交代で参加し、患者さんの体験談や世間話などで盛り上がる。最近は立ち見が出る
役員会…患者会の運営の要。毎月開催
研修会…4月に実施。治療や社会保障制度など、テーマに詳しい職員が講師を務め、食事や入浴、散策などの交流付き
総会…6月に開催。日帰り温泉と昼食会を兼ねて。この日は無礼講(お酒もOK)
バーベキュー…9月に実施。野菜多めで参加者はお腹いっぱい。栄養部が大活躍
健康まつりへの出店…患者会として健康に良い食べ物を販売。たとえば「血糖値が上がりにくい麦飯のカレー」
ホテルランチ…11月に実施。2008年から始め、最も人気のある企画。市内のホテルでの食事だが、事前に料理人と打ち合わせを重ね、600キロcal、塩分・糖分控えめのコース料理が出てくる。お値段も控えめ
機関紙…年に4回発行する
表彰…80歳を迎えた会員さんと、インスリン療法を20年続けた会員(日本糖尿病協会)
職員は…糖尿病グループ会議を月2回開き、みのり会の活動をささえる
■「患者会」はなぜできた?
石川ではみのり会より先に高血圧患者会ができていました。
民医連の事業所は、戦後「お金がなくても医療にかかりたい」と願う地域の人と「困っている人たちのために」と志を持った医療者が力を合わせて各地で立ち上げたものが少なくありません。
石川にもそんな診療所ができました。国の失業対策事業に従事していた「ニコヨン労働者」(ニコヨン=日給二四〇円で働く日雇い労働者にちなんだ呼び名)の待機所を訪問する「飯場回診」を毎月行っていましたが、仕事中倒れた人の緊急往診が時々入ります。脳出血が多かったといいます。一度は高血圧と診断され治療を始めるが、中断して亡くなるのです。城北病院の名誉院長・莇(あざみ)昭三医師がみのり会の五〇周年記念誌に当時のことを寄稿しています。
職員たちはこんなことに気づきました。「医療者が病気を見つけ、薬を出しても、患者本人が病気を理解し治療の主体になれなければ治療は続かず、残念な結果を迎えてしまう」。そこで患者会ができたのです。
医療は「患者と医療従事者の【共同の営み】」とする民医連の医療観、言葉は一九八四年の運動方針で出現しますが、日々の実践で得た確信がベースになっています。
■「患者が主人公」を体現
糖尿病のみのり会の結成は一九六七年。当時は医療者の認識も「糖尿病だから糖分の多いものはダメやろう」という程度で、糖尿病の入院給食には、おから、ゴボウ、コンニャクが並びました。空腹のあまり、食料をとりよせる患者さんもおり、「回診で患者の懐からおにぎりが出てきた」という出来事も。
糖尿病学会から食事療法のための「食品交換表」が出ると、職員たちは最先端の知識を普及すべく、交換表に基づいた食事の試食会や学習会を地域で開きました。栄養士は栄養の専門知識のない患者さんにも理解できるよう、説明に工夫をこらしました。すると「分かりやすい」と、他院の糖尿病患者も参加しました。他の医療機関では食品交換表を全て覚えなさい、と難しい指導がされたようでした。
「患者会ができるということは、お医者さんや看護婦さんや病院スタッフが主じゃないってことを具体的に分かってもらうものだったと思う」。結成から関わったOB職員は会の五〇年記念誌上で振り返っています。患者会は「患者が主人公」という医療を体現するものでした。
みのり会結成から四年後、日本糖尿病協会の石川県支部も結成されました。患者会は病気を学ぶだけでなく、治療を妨げる問題にも目を向けていきます。たとえば、インスリンの自己注射。当初は認められておらず、患者さんの中には毎日朝食前に医療機関に注射に行き、仕事に出るというたいへんな不便を強いられている人もいました。患者会が声をあげたことで、自己注射が認められ、保険適用も実現しました。
■医療従事者も学ぶ
現在、みのり会の会員は二〇〇人超。健康への関心は一般に女性が高い傾向がありますが、患者会の男女比は外来患者さんのそれとほぼ合致しています。
会の活動を引っぱる頼もしい役員さんたちも、闘病中の糖尿病患者。行事の運営や事務仕事は、職員たちがささえています。病院には疾病別に九種類の患者会があります。みのり会を担当しているのは、会の副責任者として信頼のあつい事務の大川希久子さんを先頭に、様々な職種の四五人。職員も患者会に関わることで学んでいます。
「日々の悩み、何を食べたら血糖値があがったかなど、患者さんたちのお話から、普段の業務では得られない勉強をさせてもらえます」と話すのは管理栄養士の市村まゆみさん。
「糖尿病の会なのに、食べてばかりで最初は驚いた!」と話すのは、今年担当になった看護師の英(はなた)律子さん。関わるにつれ、患者さんたちは患者会に安心できる場を求めているのだと気づいたそう。「『患者さんは指導の対象』と思ってた。でも病気に関しては患者さんたちの方がベテランなんですよね」。
言語聴覚士の森山智沙子さんは「リハビリで接する機会の少ない糖尿病を学べた」と。「単に病気の知識だけでなく、若くして発症すると、生活困窮につながることも知りました」。多職種で担当するので、日常診療の連携にも良いという副産物も。
「患者会活動に関わることで、短時間の診療の場ではつかめない暮らしぶりが見えてくる。これは一種の『アウトリーチ』です。また何より、仕事や生活をしながら、闘病する患者さんたちの生き方にも、私たちは学ばされています」。長年会を担当してきた城北病院の莇也寸志医師は話します。
■患者会の価値を捉えなおす
みのり会を担当して二七年になる莇医師ですが、あらためて患者会の価値を捉えなおそうと考えています。社会環境が人々の健康にどう関係するか―というSDH(健康の社会的決定要因)の視点からの検証です。
「日本には、患者会活動と健康の関係の検証がほとんどありません。社会的なつながりが強いことが、運動や減量より長生きに効果がある、という研究がありますが(下図)、患者会活動は社会的支援のひとつになっているのか、ヘルスリテラシーの強化につながっているか、集団で闘病することが血糖コントロールに影響しているか―。こうした点が検討課題です」。
莇医師が一〇年前に行った患者の血糖コントロールの要因分析にも、ヒントがすでにありました。コントロールに良い影響を与えていると思われる要素に「知人・友人の支援」と「患者会入会」の二つが浮上していたのです。「ここ三年のカルテを見る限り、患者会に入った人から中断がいない、というデータも。意識の高い人が入会する、という見方もできるので、現段階では何も言い切れませんが、検証したい」。
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民医連ならではの日常医療・介護活動に根付いている視点やこだわりはどこから生まれたか? 今年は春以降の紙面で追っていく予定です。
■1人1人と患者会■
患者会は患者さんにとってどんな意味があるのでしょう。
「インスリンをうつことになり、涙が出た」という松本和子さんは、当初は療養指導を受けても、萎縮してうまくコントロールできなかったそう。患者会に出会い、ひとり抱えこまずに済むように。闘病は30年、合併症も起こしていません。
野口澄子さんは栄養士でしたが「専門職として学んだことと、患者会で学べることは違う」と。
開業医のすすめで城北病院に通うようになったのは元銀行マンの長谷川敏彦さん。開業医にかかっていたので患者同士の交流経験は皆無。「同じ苦労をする人たちの存在が心強い」と。
副会長の山本まち子さんは本でもテレビでも、病気を学ぶのは難しい、と感じていましたが、患者会で仲間ができ「はまりこんでしまった」。「自分も主治医にならないとダメやね」と。
会長の立野正俊さんは、胆石の手術の傷口がなかなか塞がらず「観念」して糖尿病治療を始めた人。「患者会は医療者と患者のまさに『共同のいとなみ』。患者会は治療に欠かせない。会員を300人にしたい」。
『健康格差あなたの寿命は社会が決める』
NHKスペシャル取材班
「はじめに」で全日本民医連の調査も紹介し、第一章で城北病院の莇也寸志医師の取材を通して、雇用形態の違いが疾病にも影響し格差につながる事を解明している。終盤は、自己責任論に対して反論。厚労省が出している国民の食塩摂取量と、財務省の食品加工用塩消費量の相関関係が示され、一人では健康を守る限界があることを納得させてくれる。「おわりに」には憲法二五条も登場。お勧めです。(小林吉男、神奈川)
価格:780円+税
発行:講談社現代新書
電話:03(5395)4415
(民医連新聞 第1659号 2018年1月1日)