リポート 世界の医療者と民医連が交流
昨秋、フランスと韓国で行われた医療と社会保障をめぐるシンポジウムに、全日本民医連の代表が参加しました。各国の社会保障の現状を交流し、国際連帯の重要性が共有されました。
世界の運動に連帯を
フランス 「全ての人民の社会保障を受ける権利」シンポ
増田剛副会長
一一月二三~二四日、パリで行われた「全ての人民の社会保障を受ける権利」シンポジウムに藤末衛会長、入江敬一事務局次長と筆者が参加しました。フランス、ギリシャ、中国、セネガル、チュニジアなどから約一五〇人が集いました。
全日本民医連は二〇一五年の学術・運動交流集会の国際シンポジウムにフランスと韓国の医師を招き、新自由主義的政策に対峙して「権利としての社会保障」の発展のために連帯してとりくむと確認しました(大阪宣言)。主催者のリムーザン医師(仏)はこの大阪宣言を紹介し、連帯したとりくみの重要性を強調。藤末会長は日本の社会保障の現状と民医連の活動について三〇分の講演をしました。自覚的な医療者の活動が公的支援なく継続発展していることに賞賛が寄せられました。
ILO(国際労働機関)のシュミット氏は、社会保障が充実する国では国民の貯蓄率が下がる傾向で、世界規模でみると年金を受けられない人が五〇%、健康保険がない人が三九%、十分な社会保障を受けられない人が七三%存在していると報告。ILOとして途上国への支援を強化する決意を述べました。
ギリシャ公衆衛生省のバスコソス医師は、厳しい財政下で格差拡大、患者負担増大、プライマリヘルスケアは後退したと報告。誕生したばかりの左翼系政権の苦労を語りました。
中国の社会保障の現状を報告したのは上海近郊在住のラポルテ氏。生活保護拡充や保険制度統一など制度の整備が急速な経済発展をささえた一因とした上で、社会主義的市場経済下での都市と農村の格差の広がり、戸籍外子の存在と医療が行き届かない問題、保険給付率の低さなどの課題を挙げました。
元チュニジア移民社会統合大臣のサブリ医師は、北アフリカ地域の社会保障について報告。一九九〇年代から経済発展が減速し、人々の暮らしは厳しく、特に石油が産出できなくなった国では医療が民営化され、患者負担は重く、貧困から抜け出す手段が必要だと語りました。
公衆衛生が専門のアチャド医師はサハラ以南のアフリカの現状を報告。最も貧困な地域への世界的支援を訴えました。
各国の報告から、グローバル化・新自由主義的政策の進行で格差と貧困が広がり、社会保障を巡る財源問題が焦点となっていることが浮き彫りとなりました。日本の社会保障の前進のためにも国際連帯の発展に全日本民医連として関わることの必要性を認識した二日間でした。
いのち輝く新しい道へ
韓国 人医協30周年国際シンポ
長瀬文雄副会長
一一月一八~二一日、韓国・人道主義実践医師協議会(人医協)三〇周年記念式典と国際シンポジウムに柳澤深志副会長、岸本啓介事務局長、大阪・淀協の内田寛専務理事と筆者で参加しました。ソウル市健康政策局長との意見交換も行いました。
人医協は一九八七年、軍事独裁政権を打ち破る運動を担った医師・医学生が設立。同国の医師の〇・七%の七〇〇人余の医師、医学生が加入。労災、ホームレス、移住労働者、貧困地域や離島への医療支援、イラクや北朝鮮の子どもの人道支援、被爆二世救済や反核平和運動、医療民営化反対など、“困難あるところ人医協あり”です。
健康社会のための歯科医師会、薬剤師会、医学生の会、健康権実現のための保健医療連合などが誕生。朴槿恵前大統領退陣運動でも活躍しました。
記念集会では、「生命と健康を最優先する医療の番人となる」「全ての人に障壁のない医療制度の実現」「社会の不正義・不平等に立ち向かい患者の権利を守る」「戦争政策に反対し、平和の連帯を実現しよう」などの「三〇周年宣言」を採択しました。
私はレセプションであいさつしました。民医連創設に参加し、昨年三月に一〇〇歳で亡くなった肥田舜太郎医師(一三年に人医協で講演)の「いのちの主人公になろう」の言葉を紹介し肥田医師と同い年で日本留学中に治安維持法で逮捕され獄死した尹東柱(ユン・ドンジュ)さんの詩「新しい道」を引用しつつ、「日韓の医療者の連帯でいのち輝く新しい道を歩もう」と呼びかけました。
国際シンポジウムでは、「不平等の時代における医師の社会的役割」をテーマに、韓国、日本、フィリピン、イギリスの代表が発言。前世界医師会会長のマイケル・マーモット氏が「不平等時代における健康権、医師の役割」と題して報告し、討論しました。柳澤副会長は、日本社会の実態や民医連の歴史、理念を紹介し、格差と貧困、超高齢社会に立ち向かう課題と運動、実践を報告。「民医連が運動体でありつつ事業や経営を維持、継続できるのはなぜか」「民医連との交流を深めたい」という声が多く寄せられました。
新自由主義的な医療政策を打ち破る課題は各国共通で、国際連帯の必要があり、「いのちの平等」へ日韓の人民的連帯が必要なことを再確認しました。
(民医連新聞 第1659号 2018年1月1日)