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民医連新聞

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漫画『君たちはどう生きるか』 作者・羽賀翔一さんにきく

 1937年、軍国主義が勢力を増し悲惨な戦争に突きすすむ日本で、次代を担う少年少女に希望を託して執筆された本があります。吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』。生み出されて以降、時代を超えて愛されてきましたが、昨夏、マガジンハウスから漫画化されました。発刊以来、販売部数が伸び、95万部超え(12月20日現在)。ミリオンセラーは確実です。漫画版の筆者・羽賀翔一さんに聞きました。(丸山いぶき記者)

流されていないか―
考え続けることが大事

―どのような経緯で、八〇年前の作品が漫画化されたのですか?

 企画が立ち上がったのは二〇一五年です。マガジンハウスの編集者さんが『君たちはどう生きるか』を高く評価する若い同僚に立て続けに遭遇し、「今やればおもしろいのでは?」と発案したそうです。同社には漫画の蓄積がなかったため、他社の編集者に助言をもらい、僕に依頼が舞い込みました。
―羽賀先生は、それまで原作をご存知なかったそうですが、どう読みましたか?
 僕自身の経験、後悔や葛藤などを思い出しながらコペル君目線で読みました。身近な出来事を掘り下げていくと、実は大きな「社会」に通じるのがおもしろい。作品作りにも似ていると感じました。
 僕もコペル君と同じ母子家庭で育ったのですが、漫画家をめざすきっかけはいとこがくれました。小学生の頃、『まんが道』(藤子不二雄Ⓐ)をくれたんです。描くのを止めた時期もありますが、大学卒業を前に講談社の新人賞に初めて投稿して賞をいただき、抱えていた疑問を消化できたような達成感がありました。
 以来、派手なことは何も起きないけれど、ごく身近な出来事からドラマが生まれる作品作りをしてきました。あらためて、そのことに気づかせてくれたのは、今回の『君たちはどう生きるか』の漫画化でした。

―漫画化で苦労した点は?

 依頼を受けてから、原作者・吉野源三郎さんの他の著作も読みました。吉野さんの思想の根底には、「人を信じる」ことや「人間の尊厳」があります。コペル君が深い絶望の縁からはい上がる姿にも、「それこそが人間の魅力」というメッセージが込められているように思います。
 しかし、原作をそのまま漫画にするのは難しく、削って足して、異なる点もあります。原作には第九章があるのですが、感情の流れや読了感を優先して漫画では削りました。
 僕が漫画家としてやるべきことは、原作の世界観を壊さないよう注意しながらも、登場人物の感情に限りなく近づき描くことだと考えました。概要的に原作が分かればいいというものを描くのではなく、漫画としても耐久性のある新しいものにしたかったのです。
 そのためには自分から生み出すものが必要で、経験や記憶をフル稼働させ骨太な話になるよう心がけました。そこが難しく、苦しかったと同時に、やりがいでもありました。
 冒頭から描きすすめては戻り、をくり返し、担当編集者と共に、僕の“コペル君”を作り上げました。彼の髪型も、時代背景からすれば本来坊主頭ですよね。でも、「手が気持ち良いと感じる絵を描きなさい」という、以前もらったことのある助言を思い出し、感覚的な正しさを優先しました。

―戦争に突入していく原作の時代と、現代を重ねたりもされたのでしょうか? 漫画版で伝えたいことは何でしょう?

 「全体に流され個が失われること」。これは時代を問わず人が抱える問題かもしれないと思います。今まさに起こっているかもしれません。
 コペル君の教室のシーンで原作にはない“怪物”を描きましたが、これは小さな教室だけでなく大きな世界にもいます。僕たちは無自覚にそれに加担してしまう危険がある。そうならないために、おじさんはコペル君に「自分で考える」ことを教えています。
 原作のメッセージをひと言で表すのは難しいですが、あえて言うなら、「分かろうとするより考え続けることが重要」ということです。自分の目で見て感じたことから考えることや、一歩引いた視点と「寄り」の視点などの生きるヒントの数々に、原作も漫画版も読み返すたび、発見があるはずです。手にとってくださった人にはぜひ読み返して、考え続けてほしいと思います。僕も原作を何回も読み返したいと思います。漫画版はアラが見えて読めませんが(笑)

―最後にズバリ、羽賀先生もまだお若い。どう生きますか?

 登場する“おじさん”は、コペル君が亡くした父親の空白を埋め意思のバトンを繋ぐ役割も担っています。この絶妙な人物配置が作品の優しさとして現れています。
 僕も、漫画を通して出会えた人から得たものを繋ぐために、これからも、誰かの疑問や心の負担を軽くする物語を作っていきたいと考えています。


「君たちはどう生きるか」原作の話

 原作は『日本少国民文庫』の1冊として生まれた。労働運動や社会主義運動が激しく弾圧され、言論の自由もすでになかった80年前のことだ。物語は、15歳の中学生、コペル君あてに叔父さんが書いたノートを織り込み進行する。話の終わりにコペル君はこう書いた。
 「僕は、すべての人がおたがいに良い友だちであるような、そういう世の中が来なければいけないと思います。(中略)そして僕は、それに役立つような人間になりたいと思います」
 閉塞した社会の中でも、次世代に希望を託そうとした作者らの思いが表れている。


 はが・しょういち:1986年生まれ。2010年、「インチキ君」で講談社第27回MANGA OPEN奨励賞受賞。11年、「ケシゴムライフ」を同社『モーニング』で短期連載し、14年に単行本化。近著に『昼間のパパは光ってる』
Twitterアカウント@hagashoichi

(民医連新聞 第1659号 2018年1月1日)