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民医連新聞

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こたつぬこ先生の社会見学~3・11後の民主主義 (9) 政治のアンカー(錨(いかり))をつくりだせ

 総選挙後、各地で選挙戦をたたかった人たちの話を聞く機会がありました。野党再編の混乱に四苦八苦しながらも、これまで培ってきたつながりを生かして奮闘したみなさんの話には、どれひとつとして同じパターンはありませんでした。今回の選挙は、「極めて複雑な方程式」を解くことが求められました。
 早々に候補者を決め、選挙に向けて準備し、既存のつながりをベースにやっていくという「単純な方程式」ではなく、野党共闘の原則と一致点を守りつつ、かつそれぞれの地域の条件を踏まえ、そして情勢の変化に対応しながら選挙態勢を組み上げていくという実に複雑な作業だったのです。裏切り、葛藤、対立、動揺、混乱に苛(さいな)まれた今回の選挙戦。どの人の口からも愚痴は漏れつつ、しかし同時に「政治」というものの面白さと可能性がそれぞれの語り口で述べられる、こんな選挙はかつてなかったのではないでしょうか。
 今回の総選挙の「成果」は、担いだ候補者の勝ち負けにとどまりません。選挙に関与した数多くの人が「複雑な方程式」を解く試練と面白さを体験し、豊かな経験を獲得したことは、「政党間が共闘しているから共闘する」といった単純なパターンに収れんされない、地域やつながりの特性を生かした多様な選挙戦術が今後発展していく可能性を切り開きました。選挙戦に関わる個々人が多様な経験を持ち寄り、時々の全国的な情勢を見極めながら判断していく。こうした草の根レベルでの主体性が折り重なるように積みあがっていくことで、「政治のアンカー(錨(いかり))」は、より強固なものになっていきます。
 今回の総選挙では、立憲民主党が躍進しました。この党は「排除」されたことで「逆風」を「追い風」に切り替え、民進党にとりついていた「しがらみ」を断ち切り、民意を鏡のように反映させることで大きな支持を獲得しました。ただこの勝利は「風まかせ」で得られたものであり、党の中身は空洞で、時々の風に左右されず、しっかり大地に根付くアンカーをもっていません。中長期的視野で市民と野党の共闘を発展させるためには、新たなアンカーをつくりあげていくことが必要です。
 政治を風まかせにせず、社会に根ざしたものにするという観点からすれば、今回の総選挙で野党陣営が獲得した最も大切な財産は、ネットやメディア上で繰り広げられた空中戦ではなく、各地域で眠っているいまだ語られない経験とつながりです。その意味では総選挙はまだ終わっていません。年末は、たたかいのなかで得た新たな出会いを再確認し、みんなで居酒屋に行きましょう。語り合い交流することが未来に投資する「資本」をつくりだしますから。

こたつぬこ:本名は木下ちがや。政治学者。大月書店から『ポピュリズムと「民意」の政治学:3・11以後の民主主義』絶賛発売中!
Twitterアカウント@sangituyama

(民医連新聞 第1657号 2017年12月4日)

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