ひとつひとつ署名を集め“核無き世界”つくりたい ―堀田シヅエさん 97歳のヒバクシャ、いまも署名集めに
今年七月七日、初めて核兵器を「違法」とした核兵器禁止条約が、国連加盟国の六割以上の賛成多数で採択されました。一〇月六日には、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーンICAN」のノーベル平和賞受賞も決定(授賞式は一二月一〇日、ノルウェー・オスロ)。核兵器廃絶へ向けた世界の確かな流れを作り出したのは、日本の被爆者です。広島で被爆した堀田シヅエさんに聞きました。(丸山いぶき記者)
「核兵器禁止条約は良かった!肥田舜太郎先生が生きていたら…と思うよ。被爆者のことは何でも分かっていた先生だったから」。
堀田シヅエさんは、今年三月に一〇〇歳で亡くなった被爆医師・肥田舜太郎さんと共に、埼玉県原爆被害者協議会・しらさぎ会の設立当初からの活動家です。ICANのノーベル平和賞受賞にも触れ、「うれしい」と話します。
救護でみた光景
堀田さんは従軍看護婦として、約七年間、中国山東省の陸軍病院におり、帰国後の一九四五年八月六日、広島で被爆しました。
当時、二五歳。古市町(現在の広島市安佐南区、爆心地から北に六・五km)の役場で保健婦として勤めていました。直後から救護所を立ち上げ、休む間もなく避難者を看護し、合間をぬって知り合いを探しに市内にも入りました。
「六・五kmも歩いてやっとたどり着いた救護所で、二〇~三〇人と次々死んだよ」。紫の斑点が体に出て、髪の毛が抜け落ち、次々亡くなる人たち。「自分も死ぬのか」と聞かれ、「しっかりご飯を食べれば大丈夫」と励ますことしかできませんでした。「医師もいなかったし、陸軍病院でも見たことのない光景だった。本当にひどかったよ。ケガしたところからウジがコロコロと」。
堀田さん自身も、被爆から二週間ほどして、体に紫斑が出て寝込み、「もうダメか」と思ったといいます。その後も「何かある」と健康への不安がぬぐえません。
一番悲しかったのは、親切にしてくれていた近所の歯医者さん一家のことです。建物疎開(空襲に備え、延焼を防ぐため、建物を解体して防火帯を作ること)で動員され、市内に行ったきり戻らない中学生の長男ヨシカズくん。お父さんは「ヨシカズは利口な子だから、必ず隠れて生きているはずだ」と連日必死に市内を探し回った末に、亡くなりました。病名は熱射病。大黒柱と長男を亡くし母娘が残され、お母さんは精神を病みました。「本当に良い家族だったのに。あの時は、みんなそういう思いをして死んでいったのよ」。
日本政府の態度は許せない
唯一の戦争被爆国の日本は、アメリカなどの核保有国とともに、核兵器禁止条約には不参加です。「日本政府はよく黙っていられる。このことはあまり知られていない。『日本は条約に賛成していない』と教えると、周りのおばあちゃんたちも驚く」。
政府は、九四年以来毎年、国連総会に提出してきた核兵器廃絶を求める決議案でも、今年は歴史的な禁止条約に一切触れず、核廃絶を求める文言も後退させ、国際社会から批判を受けています。
「核兵器は、持っているとその威力を試したくなる。使ったら自分たちもひどいことになることが、なんで分からないんだろう。“核なき世界”の実現は本当は難しいことではないと思うよ…。日本も威張っているけど、地図で見れば小さい国だよね」。
世界に逆行、教育でも
核兵器禁止条約は、批准国が五〇カ国に達してから九〇日後に発効します。九月二二日現在、署名国数は五三カ国で、うち三カ国はすでに国内手続きを済ませ、批准しています。早ければ来年後半にも条約が発効する見通しです。
「核兵器廃絶までもう少し。ここまで来られたのは日本の被爆者の力が大きい。私も、何度も海外で話したよ」。堀田さんは、アメリカは四回、スイス、ロシアなども訪れ、学校や教会で原爆の恐ろしさを伝える活動をしてきました。観光で訪れたオーストラリアでも、請われて原爆の話をしたことがあります。
「若い子たちに話をすると、みんな本当に良い反応。でも、今の学校は『平和』にあまり関心がないのかね? 昔は被爆者がよく学校に呼ばれて話をしたけど、最近はほとんどない。子どもはみんな被爆者の話を聞けば、核兵器の悲惨さや非人道性が分かるはずだけど」。
戦後、養護教諭として学校に勤めた堀田さんは、今の教育現場の変化を危惧しています。
今もヒバクシャ国際署名を
堀田さんは今も、近所を一軒一軒訪ね歩き、ヒバクシャ国際署名を集めています。「知らない家も訪ねる。地域のまつりでも三〇~五〇筆集まるよ」。
しかし、以前は近所だけで一〇〇筆集まった署名も、最近は住民が減り、三〇筆ほどになったといいます。被爆者も高齢化し、被爆者の会として署名を集めるのも難しくなっています。
「署名用紙はいつでも持ち歩く」という堀田さん。「何でも一所懸命やるのは良い。でも戦争だけは絶対にダメ」。
ヒバクシャ国際署名
HIBAKUSHA APPEAL
核廃絶を求めるヒバクシャ国際署名は、現在515万4866筆(9月29日集約)。2020年までに全世界で数億筆、全日本民医連も250万筆、2月の定期総会までに100万筆を目標に、10月末までで35万2409筆集めています。
(民医連新聞 第1657号 2017年12月4日)