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民医連新聞

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社会と健康 その関係に目をこらす(16)どう動くか 無低診の糖尿患者は、良くなりにくい? 薬剤師が学会誌に論文 経済状態とコントロールを考察 ―大阪ファルマプラン

 九月、日本糖尿病学会誌に「無料低額診療を利用中の糖尿病患者のHbA1cの値が高い」という論文が載りました。投稿者は民医連の保険薬局の薬剤師。無低診を利用する糖尿病患者さんの治療コントロールが良くないと気づき、窓口負担割合とHbA1cなど薬物治療の効果の関係を調べた保険薬局は日本初、注目されました。無低診の患者さんは、なぜ良くなりにくいのか? 治療には患者の生活面もささえる制度が必要、というのが導き出した結論でした。

研修報告を論文に

 大阪ファルマプランでは、西淀病院の院内調剤時代も含め三〇年以上も前から、中堅薬剤師のスキルアップのため、慢性疾患の専門外来に二年間関わりながら病気を専門的に深める研修をしています。仕上げに調査を行い、内外で発表するまでが一連の流れです。
 今回の話題も、同法人の廣田憲威理事長が「論文にすべき」と目を付けたところから始まり、薬剤師・大野涼さんが、大阪民医連・のざと診療所(淀川勤労者厚生協会)の結城由恵医師の糖尿病外来で行った研修をまとめたものでした。
 論文のタイトルは、「保険薬局における一部負担金割合からみた2型糖尿病患者の治療実態」。二〇一五年三~八月の期間にあおぞら薬局で応受した処方せんの中から、のざと診療所で管理している2型糖尿病患者さんを抽出。無低の利用者と、そうでない糖尿病患者のHbA1cとBMIを比較したところ、HbA1cは無低群が〇・五%も高く、BMIも高く出ました。また、インスリンやGLP1受容体作動薬の使用も多くなっており、無低利用者は血糖コントロール不良で高度な治療を導入せざるを得ない病状でした。
 「調査前は生活保護の方が、コントロールも悪いと予想していたんです」と大野さん。出たデータから考えると、こんな結論に至りました。「無低診の患者さんは他と比べて生活習慣の改善にまで目を向けられない状況にある」。

薬局が無低に応じるわけ

 大野さんが無低診の患者さんに着目したのは、民医連が調査した四〇歳以下の2型糖尿病調査の学習会がきっかけ。あらためて糖尿病は患者の社会背景と密接だと気づき、「無低診の患者には何かあるかも」と思ったからでした。
 のざと診療所で無低診を始めたのが二〇一一年、それに伴い大野さんが働いていたあおぞら薬局でもその翌年から無低診患者の薬代の分割納付などの対応を始めました。しかし、薬剤師の間では無低診の意義をつかみきれていませんでした。分割払いの相談途中でイライラしてお金を投げつける患者さんに遭遇した話などを聞き、「嫌な目にあってまで無低の人に対応する意味はあるんだろうか」と思っていました。
 調査で無低診の人の生活背景を知り、それは変わりました。外来でこんな患者さんに出会いました。六〇代男性。脳梗塞の後遺症でほとんど目が見えなくなり、営んでいた時計屋を廃業。妻のパート収入だけで苦しい生活でしたが、「生活保護は受けたくない。働きたい」と鍼灸師になろうとしていました。国家試験に一生懸命になりすぎて、糖尿病を悪化させてしまっていました。
 食べていくことを優先して無理に働き、治療は二の次になっていると思われる患者さんは他にもいました。「生活保護以外に生活をささえる制度が無ければ、この人たちの病気はよくならない」と、大野さんは実感しました。

きめ細かい制度を

 調査では、無低患者が社会保障のはざまで必ずしも十分な生活・治療環境にないことが示唆されました。のざと診療所では、「生活保護基準の一・五倍」が無低の対象です。月数万円にもなる糖尿病の薬代を払えば、生活保護基準以下の収入になってしまいます。
 結城医師は「病状が悪化すれば透析が必要になる。国は医療費削減を言うなら、生活が安定し治療中断せず済むような制度を」と指摘します。無低事業の対象に保険薬局も追加すること、自治体での薬代助成がすすむことは必要ですが、それだけでは限界が。社会保障制度を根本から改め、「生活保護か否か」でない、個々の状況に応じたきめ細かい社会保障制度の充実が必要だと、二人も実感しています。

生活まで見つめる視点、民医連外にも広がるように―

生活に目を向けて

 「糖尿病は医師だけが関わる病気ではありません」と、共同研究者の結城医師は言います。患者さんには診察室だけでは伝えきれないこともあります。食事や運動などの生活面も含めて本人が治療に前向きになるには多職種の働きかけが必須。「薬剤師など、いろいろな職種が患者さんと関わり生活を聞き取ることが治療につながります」と、大野さんの着目を評価しました。
 「窓口でお薬を渡す時の患者さんとの会話内容が変わりました」と大野さん。研修前は薬や数値の話題が中心でしたが、いまは「何時に寝ていますか?」など患者さんの生活がつかめる質問を心がけています。論文の結びにはこう書きました。「薬局薬剤師は、患者の経済・生活状況をはじめとした社会経済的地位や健康の社会的決定要因(SDH)も十分に考慮した服薬支援を行う必要がある」。

民医連外では反応弱く

 大野さんはこの論文にまとめる以前に糖尿病学会でも同じ内容のポスター発表をしています。ところがその際は「高い薬を使わず、療養指導を重視すればいいのでは」など反応はいまひとつでした。一方で、民医連の糖尿病シンポジウムでは賞をもらいました。
 「民医連外の人には、無低患者さんの生活が伝わりにくかった」と大野さんと結城医師は振り返ります。発表をくり返すことで伝える内容が整理され、伝え方も工夫できるように。論文を書く際にも経験が生きました。
 「調査したらぜひ論文に」と大野さん。学会誌への掲載は外部の目で評価された結果であり、口頭発表とは注目度が違います。同様の視点で調査をしようと考えている民医連の事業所も出ているそう。「民医連外でも興味をもってもらい、広がっていけば」。それが大野さんたちが論文を出した目的です。

文・土屋結記者
写真・廣田憲威(法人理事長)


論文が明らかにしたこと

・2型糖尿病患者で無低利用者(無低群)は60人、それ以外(無低以外群)は931人
・HbA1cは、無低群:7.5±1.5、無低以外群7.0±1.0と無低群が0.5%も高くコントロールが悪い
・BMI(体重kg/身長平方メートル)も、無低群:26.8±4.8、無低以外群:25.0±4.7と、無低群が肥満傾向
・併用している薬剤数に違いは無いが、インスリンやGLP1受容体作動薬の使用は無低群で高かった


【糖尿病患者と社会背景】
 最近の研究では、職業階層や教育年数、所得などの社会経済的地位や健康の社会的決定要因(SDH)が糖尿病の罹患率に関与しているといわれている。カナダでは、収入別で2型糖尿病の有病率を検討したところ、富裕層を1とした場合、最貧困層では1.5~4倍ほど相対危険度が高い研究がある。

(民医連新聞 第1656号 2017年11月20日)