憲法9条に「自衛隊」を加えて大丈夫?? 弁護士・加藤健次さんにきく
今回の選挙では「憲法9条改正」も争点に浮上しています。自民党は公約で「憲法への自衛隊の明記、教育無償化、緊急事態対応条項などの改憲案を国会に提案し、国民投票への発議を目指す」としています。憲法に自衛隊を書き加えるとどうなるか? 弁護士の加藤健次さん(自由法曹団・事務局長)に聞きました。
■これまで自衛隊を規制していた力が弱まる
いまでは自衛隊はあって当たり前と思っている人が多数ですが、戦後すぐの日本ではそうではありませんでした。「武力を持った組織が日本にあってはならない」と誰もが考えており、自民党の前身だった政党でさえそうした見解でした。日本国憲法を普通に解釈する限り、自衛隊は憲法九条二項が禁じている「戦力」にあたるからです。国際的に見ても、自衛隊は軍隊です。
それがアメリカの戦略が変わって警察予備隊ができ、保安隊に改組されて一九五四年に自衛隊ができました。ですから自衛隊は常に「あって良いのか?」と批判され、疑問視され続けてきました。
「自衛隊の活動は、ここまでなら違憲ではない」という議論がありますがそれは、政府自らが言ってきたことです。自衛隊が海外に派遣されても、殺し・殺されることが一度もなかったのも「自衛隊は違憲ではないか」という根源的な疑問にさらされ、活動を規制されてきたからです。
憲法に「自衛隊」を書き込むということは、自衛隊違憲論を封じ込めることになります。その結果、長年の「しばり」から自衛隊を解き放ち、普通の軍隊に変えることになります。
なお、法律には「後法は前法を破る」というルールがあります。法律と法律の内容が矛盾する場合、時間的に後で制定された法律が、先に制定された法律より優先されるのです。新しい法を作るだけの必要があったと解釈されるためですが、このルールからも、憲法九条に三項を加えた場合、一項、二項より三項が強い力を持つことになります。
■その影響は、自衛隊に留まらない
自衛隊が書き加えられると、連動して広範な影響が出ることも考えなければならない。軍隊を動かすには、国民の様々な権利を制約する必要があり、軍隊を持つ国は、そういうしくみを持っています。軍隊を憲法で否定した日本にはその体系がありません。たとえば現在は、土地の軍事的収容はできません(アメリカ軍の用地のためには特別法で土地の収容を行っていることもつけ加えておきます)。
憲法に自衛隊という軍事的な価値が入ることで、国民の権利全体に影響します。水の中に墨汁を垂らせば、たとえそれが一滴でも濁りが出るのと同じです。
また、自衛隊が憲法に書き込まれることによって、「日本は考えを変えた」というメッセージになり、「軍隊を持たない国」としてのプラスイメージも失います。
■自衛隊の本質を変えるのが狙い
世論調査では、自衛隊への評価は高い一方、憲法九条改正に反対する意見が多数派です。「自衛隊を普通の軍隊にしてはいけない」というのが国民の声です。
自衛隊の「専守防衛」や災害救助活動などの姿は、憲法九条の下でも国民に存在を認めてもらうためにつくられてきたものです。国民が目にしている自衛隊の活動は、いわば副業です。有事下では、災害救助に隊員をまわす猶予もなくなります。災害現場で活動する時は、武器も持ちませんが、実際には武器を使って訓練し、アメリカ軍との合同演習もすすめています。戦争法(安保法制)が施行され、これまでできなかった駆け付け警護などの正当防衛以上の行為が許され、「戦闘地域」という枠組みが無くなり、どこでも後方支援が可能になりました。
ところが、戦争法の下でも、自衛隊は普通の軍隊のようには動けません。たとえば南スーダンに派遣する際も、活動内容を説明する必要がありました。これは日本に憲法九条があるため、自衛隊ができることが限定されているからです。普通の軍隊なら、やり過ぎた時に説明を求められることはあっても、事前の説明など不要です。「なぜ安倍さんはこうも憲法を変えたがるの?」と思う人がいるかもしれませんが、普通の軍隊を作るためには憲法改正が欠かせないのです。
安倍政権がひどいのは、憲法違反の戦争法を作っておきながら、「憲法が現実に合わない」という理由で、憲法改正を持ち出していることです。
なお、軍は軍の論理で動きます。大まかなシビリアンコントロールはあっても、律するのは軍法会議であり、命令です。上官に「行け」と命じられて行かなければ、死刑に近い罰則があるのが通常です。戦争では普通の社会の理屈は通りません。また自衛隊は海外で戦闘する前提がない組織ですから、戦闘で負傷した際の応急体制も非常に薄いと関係者が指摘しています。自衛隊が憲法上の存在になると、国が隊員の命を正々堂々と粗末にすることにもなりかねません。
(木下直子記者)
憲法9条
(1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する
(2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない
(民医連新聞 第1654号 2017年10月16日)