フォーカス 私たちの実践 不眠、不穏の解消新潟・下越病院 一人ひとりの患者に応じ、消灯時間を調整し不眠・不穏が減った
入院生活では、一般的にどの病室も消灯時間が一律に決まっています。そのため普段と違う生活リズムにうまくなじめず、不眠や不穏行動を起こしてしまう患者は実は少なくありません。新潟・下越病院では、その問題を「消灯時間」の調整で解決しようと試みました。同院の看護師、外川裕史さんがまとめ、第一三回看護介護活動研究交流集会で、看護師の山田要さんが報告しました。
消灯時間の調整にとりくむきっかけになったのは、四年目職員の気づきでした。「自分ならこの時間(午後九時)には寝られません。患者さんも無理矢理寝かされているのでは?」。
入院中の生活環境を整えるだけで、薬剤などに頼らずに不眠や不穏を解消できるのであれば、患者さんのためにも良いことです。
■病室ごとに調整
調査したのは神経内科病棟(四四床)で、肢体不自由、意識障害、神経難病の患者さんが主に入院しています。
まず、消灯時間が二一~六時に固定されていた期間の不眠、不穏の発生件数をカルテから調べました。期間は二〇一二年五月から一四年四月までの二年間です。
次に、二〇一四年五月から三カ月間、消灯の時間を固定せずに次の二つの基準で行った期間の発生件数を調べました。
消灯基準としたのは、(1)病室すべての患者が入眠した、と看護師が判断した時点、(2)患者本人が消灯を希望した時点、の二つです。多床室では、寝ている患者さんや消灯を希望した患者さんがいた場合、起きている他の患者さんに了承を得て消灯しました。その他の業務手順は変更していません。
発生件数は薬剤を使った回数からカウントし、一晩一患者につき一件としました。これは、不眠や不穏の対応は「効果が無ければ次はこの薬剤を」と、一連の指示が医師から出るので、実際は一度の対応なのに複数回のカウントにすることを避けるためです。
■件数が減った
全体の調査期間では、不眠・不穏の発生件数は九二六件でした。
消灯時間を固定していた期間では月によってばらつきがあり、最少の月で七件、最多八五件、合計八六三件でした。一方、時間を調整した期間の件数は六三件。平均すると、時間を固定した期間は三六・〇件、調節した期間は二一・〇件で、明らかに対応件数は減りました(図)。
なお、二つの調査時期に違いがあることを加味して、同じ時期で消灯を固定していた一三年五~七月のデータを抜き出し月平均を比べると三〇・〇件で、この場合でも消灯を調整した方が対応件数が下回っていました。
■確認が増えても…
夜間の不眠・不穏の発生は消灯時間を調整すれば減らせる、と結果は物語っています。患者さんの入院生活の質の向上、薬剤の副作用や転倒・転落のリスクを回避するなどメリットは多くあります。
一方、消灯を調整するには患者さんの状態を確認する回数が増えるというデメリットも。関わった看護師たちからも「大変だった」と感想が出ました。ですが「夜の対応が減ると考えれば、実際は負担が減っているのでは?」と、体制の薄い夜間の業務が軽減できることも指摘されました。
また、薬剤による鎮静だけでなく、日常的な生活援助で看護師が技術を発揮すれば、患者さんにより良い医療を提供できることも分かる調査でした。
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「ひとりの職員の、患者さんに寄り添った良い視点から出発した調査でした」と、山田さん。調整の実施に向け調査した神経内科病棟でも具体的な討議を重ねている段階です。
発表した際、「やってみる価値があるとりくみ」と他県の事業所の仲間からも反応がありました。山田さんは、「他科の病棟でも調べて結果が出れば、実施する病院が出るかも」と期待しています。
(民医連新聞 第1651号 2017年9月4日)