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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 食べる意欲を引き出す秋田・中通リハビリテーション病院 メイクが食べる意欲に摂食障害の認知症患者へのアプローチ

 嚥下障害や認知症による意欲低下で、口から食べることが困難な患者を多く受け入れている秋田・中通リハビリテーション病院。「少しでも病前に近づける、取り戻す」ことをめざし、患者の変化やこだわりをていねいに拾い上げ、「口から食べる」援助を重視しています。第一三回看護・介護活動研究交流集会で発表した看護師の加藤沙耶佳さんの報告です。

 当院の患者の中には、本来は口から食べられていたのに、病気や何らかの不調で一時的に経管栄養になっている人も多くいます。訓練を早期に始めることで再び口から食べられるようになるケースも少なくありません。

食事に関心示さないAさん

 Aさん(八〇歳、女性)は、脳出血を発症し、リハビリ目的で他院から転院してきました。アルツハイマー型認知症で、うつ病の既往もありました。入院時は経鼻栄養でした。うつ病の影響もあり、発語は困難で表情も乏しく、スタッフの声かけにも反応は薄い状態。食事にも関心を示しませんでした。
 しかし、家族の話では、かつては偏食もなく、食欲もあったとのこと。早期に口から食べる訓練を始めようと意思統一しました。

試行錯誤の末に

 検査で誤嚥はないことが分かり、入院一一日目からOE法(間欠的口腔食道経管栄養法)に加えて訓練食を開始しました。しかし、飲み込まずに口の中にため込んだり吐き出したりして、二割程度しか摂取できませんでした。
 認知症が摂食障害や食事への無関心に影響していると考え、Aさんの食事への関心が高まるように以前の環境に近づける努力をしつつ、意識的に声かけをしました。
 夏が近づいた入院五四日目、ベッドサイドで「暑くなってきましたね。夏と言えば、かき氷やアイスも良いですね~」などと話しかけていると、「スイカ」の単語を聞いたAさんが、口をモグモグさせるしぐさを見せました。
 そこで食事にスイカを用意。また、自宅で使っていた食器も家族に持ってきてもらいました。しかし、反応は今ひとつ。その後も一~五割の食事摂取が続きました。
 この間、なかなか摂取量が増えず、「経管栄養や胃ろうを検討しては?」という主治医からの意見もありました。しかし、嚥下機能には問題がないことなどから、看護師から「もう少しがんばりたい」と訴え、訓練を続けました。
 入院七九日目、セラピストが家族との会話から、「ひとり暮らしの時も毎朝の化粧を欠かさず、きれいにしてから近所の人とおしゃべりをしていた」と聞き出しました。多職種で共有し、さっそく愛用の化粧品を持ってきてもらい、Aさんにメイクをしました。
 すると顔色が良くなり、スタッフからも「きれいね~」「似合ってるよ!」などと声をかけられ、笑顔が出ました。そのまま食事となり、なんと九割ほどを食べることができました。それまでで一番多い摂取量でした。
 その後も朝はメイクすることにしました。それから食事の摂取量は目に見えて増え、全量を食べられることも多くなりました。メイクの際には自分で口紅やパフを持ったり、食事でもスプーンを口に運ぼうとするなど、自発性まで現れてきました。

個別性重視した援助を

 患者には個別性があり、その人に合ったきめ細かい援助が必要です。そのために、それまでの生活スタイルや歩んできた人生、性格など、家族の話も参考に理解し、病前の暮らしに近づけることを意識しています。
 Aさんのケースでは、食事に関わることにとどまらず、家族との何気ない会話を聞き漏らさず、病前の習慣であるメイクを取り入れたことが転機となりました。
 メイクすることと食事への意欲が結びついた時は、「食べてくれた!」と驚きました。改めて個別性を大事にした援助を深めていきたいと考えています。

〈Aさんの経過〉

入院11日目…3食OE法、訓練食1回食開始
       ため込み、吐き出しあり。2割摂取
入院56日目…「スイカ」に反応あり
       スイカ導入、自宅の食器使用するも変化なし
入院79日目…以前は「毎朝化粧していた」との情報
       愛用していた化粧品でメイク実施
       →表情が明るくなった
       →食事は9割摂取(入院後最も多い)
       →笑顔が出て、自発性も現れる
入院84日目…OE法中止、訓練食3回食へ
       3食全量摂取の日が多くなる

(民医連新聞 第1650号 2017年8月21日)