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民医連新聞

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社会と健康 その関係に目をこらす(14) どう動くか 14回目の「熱中症調査」結果を手に自治体へも ―大阪民医連

 大阪民医連では毎年、「地域から熱中症による死亡を出さないための調査」を行っています。今年で一四回目。七月一〇~八月五日、大阪民医連に加盟する一九の医科法人、四薬局法人の全て、二五〇超の事業所が今年も奮闘し、目標にしていた一〇〇〇件訪問を達成しました。高齢者の貧困と熱中症の関係の強さを物語るデータが出ています。調査に同行しました。(丸山いぶき記者)

 八月二日午後二時、淀川勤労者厚生協会・ファミリークリニックなごみの奥平和美事務長と、福山香織看護主任が訪れたのは、七〇代の患者さん宅でした。この日の大阪市の最高気温は三五・七度。
 扇風機はありますがあまり使っていない様子で、私たちが訪れて動かしました。月一三万円の年金生活で、エアコンは故障して以来、設置していないとのこと。聞き取りの間、座っているだけで汗が流れました。室温は三二度。
 水分補給し薄着にしていると話しますが「この暑さは危険!」と氷枕での身体の冷やし方や経口補水液の作り方を知らせました。

なぜ熱中症調査か

 調査の目的は、「熱中症の危険が高い高齢者の生活実態の調査・把握」、「困難世帯への必要な対応」、「行政・世論への熱中症対策の要請」など。対象は各事業所の外来・在宅患者で六五歳以上の高齢者独居・高齢者夫婦世帯など。各事業所一〇件、県連で一〇〇〇件を目標にアンケートや調査員からの注意喚起をします。
 大阪民医連が調査を始めたのは二〇〇四年。格差と貧困が広がる中、在宅往診を通じて、「熱中症は家の中でも起きている」との問題意識でした。当時は、「家の中でも熱中症」は社会的にも全く認知されていませんでしたが、調査で事実を積み上げ、行政交渉やマスコミなどに伝える中で、社会的な問題にすることができました。
 二〇一六年度に集めたデータは一一二一件。室温三〇度以上は四八〇件で四割を超え、二九度以上では六一三件と五割超え()。また経済的理由でエアコンを設置していない、あるいは二時間未満とほとんど動かしていない人を調べると、九・二%(一〇四件)に上りました。認知症自立度IIa以上が三割と、熱中症予防のためにエアコン使用を呼びかけても理解が困難な人が多いことも判明。日常生活自立度で、準寝たきり(A1)以上が約四割に上るため、行政が呼びかけるような冷房のきいた街中のシェルターへの避難には、特別な手立てが必要で、有効ではありません。こうした傾向は続いています。

図

行政への要望

 大阪民医連は熱中症調査がまとまると記者会見を行っています。追跡取材が入ることもあり、「そうした報道で啓発効果は一定あがっているとは思う」と大阪民医連の西村俊治事務局次長は話します。ただ、「啓発だけでは不十分、熱中症対策には積極的なアプローチが不可欠」と調査担当の事務局員・地道亮さんは強調します。
 大阪府にも対策を求めています。府の回答は決まって「年一回の介護施設への指導時に注意喚起をし、府庁内掲示やホームページで呼びかけている」。対して「地域のネットワーク作りで、新オレンジプランの具体策として予算を割き、対策せよと求めています」と西村さん。
 環境省や総務省には熱中症に関する詳細な統計が。「そのデータを生かし、大阪府が総合的に対策を打てば、効果はあるはず」と地道さん。府では担当部署もなく予算がつかないため、心ある府職員も「何もできない」と嘆きます。西村さんは「非正規公務員を増やしたことも対策に踏み出せない一因では」と考えています。

とりくみの発展へ

 調査は今年で一四年目、職員にも定着し、「七月からでは遅い」と六月初旬からの訪問の提案も。当初二週間だった調査期間も現場の意見で四週間になりました。
 苦労も。訪問系は日常業務の延長ですが、病院などの施設系は毎年訪問を組むのに苦戦します。しかし、そういう事業所ほど調査で高齢者の生活実態をみて、得るものが。ネットワークの広がりが早期発見・早期対応につながることも実感されています。

事業所独自の工夫も行って

 「正直、毎年の行政交渉には手応えがない」と二人は口を揃えます。行政を動かすには、地域、民医連外も巻き込む必要性が。一四年間の蓄積を生かし研究者との連携も検討中。実効性ある熱中症対策が、結果的には救急搬送数の減少や医療費削減になることも行政に強く訴えていきたいと考えています。

訪問はアポなしがコツ

 訪問を終え、「ほんまに暑かった」「熱い空気を扇風機でかき回しているだけ」と語り合う奥平さんと福山さん。
 なごみでは、外来で問診時に話を聞き、「クーラーないねん」「なしでもいける」という患者さんに当たりを付けます。訪問の約束をして行くと、普段はつけないエアコンをつけて準備してしまうから、応じてもらえないこともありますが、なるべくアポ無しで。
 職種を問わず二人一組で、一件二〇~三〇分ほど聞き取ります。なごみの訪問目標は、昨年の倍の二〇件、全職員が参加予定。数年前の熱中症学習会をきっかけに、独自で経口補水液のレシピも渡しています。自宅での顔は事業所に来る時の顔とは違って訪問で初めて分かることも多く、特に事務職員には貴重な経験です。新入職員研修で、熱中症訪問をしたこともあります。中には冷蔵庫がない家も。気になる患者さんは毎年訪問することになります。

法人として

 昨年、淀川勤労者厚生協会では全事業所群がHPHを取得しました。熱中症調査も「より多くのデータを集め報告、行政懇談・要望をしよう」ととりくみを強化しています。一職員一回、法人全体で三五〇件と大きな目標を立てました。
 調査からは、日中独居で家族が居るときにだけエアコンをつける高齢者が多いことや、エアコンがあっても故障していたり、認知症で操作を誤り暖房になっているなどの実態が見えてきます。友の会など比較的つながりの濃い人だけでもこれだけの実態。潜在的危険は計り知れません。数年前には、病院隣のマンションで高齢夫婦が熱中症で亡くなる事例も。室温は三九度だったといいます。特に生活保護世帯では、エアコンを買うには長期間生活費を削り貯金しなければなりません。エアコンを日用品として保障する、夏季加算を支給するなど対策が必要です。

(民医連新聞 第1650号 2017年8月21日)