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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 胃ろうから経口摂取へ 鹿児島・川辺生協病院 口から食べるために 「意欲」に注目

 療養生活における摂食嚥下ケアで重要なのは、患者や家族の食べることに対する思いです。鹿児島の川辺生協病院(療養病棟・四八床)では、気管切開し胃ろうを造設した患者の「食べたい」意欲を引き出し、経口摂取できるまで関わりました。同院の介護福祉士、前田千勝さんの報告です。

「バナナを食べたい」

 八〇代の女性患者。他院に居た時に敗血症性ショックで二度、心停止し、左小脳梗塞を発症しました。人工呼吸器管理となり気管切開、胃ろうを造設しました。
 当院にはリハビリ目的で転院。呼吸状態は安定しており、人工呼吸器の離脱に向けてリハビリをすすめようとしましたが、何事にも意欲が湧かずベッドで寝て過ごすことが多くなっていました。
 入院当初、日常生活自立度はC―2、自力で寝返りもできない状態でした。筋力が無く、ベッドをギャッジアップしても座位を長く維持できず、スタッフなど他者との意思疎通は、口の動きやジェスチャーで行っていました。
 本人の思いを聞いてみると、希望したのは唯一「もう一度バナナを食べたい」。カンファレンスの結果、最終的な目標を「座位で自力で食事できるようになる」こととしました。
 課題は、(1)気管カニューレを挿入した状態で摂食は可能か、誤嚥はないか、(2)自立度がC―2で全身筋力低下、ADLの低下がある、(3)食べたい思いとは逆に、意欲にムラがあるため摂食訓練がすすまない、の三点でした。

やる気を引き出す

 嚥下機能の検査では問題はなく、理学療法士による排痰や呼吸、発声のリハビリをすることに。同時に摂食機能の訓練も始めました。
 リハビリ以外では、ベッドをギャッジアップしておく頻度を増やしました。車いす移乗が可能になった段階で整容や読書、散歩で離床時間も増やしました。
 入院して三カ月で車いす移乗が可能になり、六カ月で起立訓練ができるまで向上。また、気管カニューレも抜去でき、人工呼吸器から完全に離脱できました。
 摂食訓練は、ゼリーから始めましたが、本人はすぐ飽きてしまい、アイスクリームも試しましたがあまりすすみませんでした。患者の希望も聞き栄養サポートチームで協議し、「昼食のみお粥」などを始め、他の患者といっしょに食堂で食べるようにしました。
 すると、カニューレ抜去のタイミングとも重なり、意欲が向上。食形態もすすみ、入院から九カ月で、本人も希望して三食とも経口摂取に移行しました。最終的には普通食になり、希望していたバナナも食べることができました。
 患者のやる気を引き出すのに効果があったのが夫の協力。毎日来院し、自宅から写真を持ってきてもらったり、病室をきれいに飾り付けるなどしてもらいました。その結果、患者の五感が刺激され、食に対する楽しみも生まれていました。食べるようになり体力がつくと、離床やトイレへ行くこともできるようになりました。

「食べる」ことが喜びに

 食への意欲がなかなか向上せず、根気強い関わりが必要な事例でした。多職種で患者家族と連携を図り、患者と向き合い続けたことで、最終目標に向けて課題をひとつひとつクリアできました。ADLはC―2からB―1に向上、その他の状態も改善しました()。
 今回は、「食べる」を通して喜びを感じ、生活の行動や意欲の向上につながると、あらためて実感しました。患者さんができることを見逃さず、多職種で連携をとりながら、今後も生きることに寄り添う看護、介護を実践したいと思います。

(民医連新聞 第1648号 2017年7月17日)