権利としての医療アクセス保障、医療費助成、窓口負担軽減 社会保障制度の入口としての無低診の役割を確認 受療権を守る討論集会2017
全日本民医連は五月二〇~二一日、受療権を守る討論集会二〇一七を東京で開きました。三四県連から一四三人が参加。無料低額診療事業交流集会から「受療権(適切な医療・介護を受ける権利)を守る」と切り替えて開く集会は二〇一五年に続き二回目です。今回は、日本国内の経済格差と貧困がますます拡大するもとで、権利としての医療へのアクセスの保障や、「受療権を守る入口」としての無低診事業の役割などを確認し、社会保障改悪を止めるための総がかり行動への力とすることを目的にしました。(丸山聡子記者)
全日本民医連理事会を代表し、増田剛副会長があいさつ。「受療権を守ることは民医連の魂。病気を抱えながら病院に来ることさえできない人をどうささえるか。受療権保障を入口に、日本の社会保障はどう歩んでいけばいいのか、議論を」と呼びかけました。
全日本民医連社保委員長の田村昭彦医師が問題提起。「全日本民医連に加盟している事業所で無料低額診療事業を行っているのは三七七事業所。前回の集会時より九カ所増えましたが、約半数の事業所が未実施」と紹介。集会の目的について、「公的保険の解体と産業化、格差と貧困の拡大のもと、権利としての医療へのアクセスの保障」「子ども医療費無料化など、医療費助成、保険料や窓口負担軽減のとりくみ、国保法四四条(※)の拡充・改善、生活保護制度改善など社会保障制度の拡充」「受療権を守る『入口』としての無料低額診療事業の役割の確認、とりくみの交流」「社会保障改悪阻止を幅広い人たちに呼びかけ、市民的包囲網を作り、今以上の総がかり行動にする」と説明しました。この集会で議論するテーマとして四つの論点を提示しました(表)。
指定報告は、窓口負担完全無料化の運動、民医連の無料低額診療事業、無低診の拡充と可視化、国民健康保険法四四条の活用、のテーマで四人が行いました。三重短期大学の長友薫輝教授が「地域で医療保障をつくる~新たな医療費抑制の中で~」と題して学習講演を行いました。
■分散会討論から
二日目は四時間半にわたって分散会討論を行いました。
無低診の運用について、経験や悩みを交流。複数の問題を抱え、生活保護や国保の減免など公的制度につなぐのが難しいケースも多数出ました。埼玉の鹿野睦子さんは、「患者さんが住む地域の役所や公的機関も巻き込んで一緒に対応を考える姿勢が大事」と指摘しました(第一分散会)。
国保法四四条についての議論では、「SWが患者さんと申請に行くと、『用紙がない』と言われ、四〇分待たされてようやく出てきた」「都内の自治体のホームページを調べたが、四四条の紹介は皆無」「県内の自治体を調べ、条例がある市がわかった。条例のない自治体にも作らせる」「ほとんどの自治体の適用基準は、前年からの収入減。慢性的な困窮に役立つ制度に改善が必要」などの意見が出ました(第五分散会)。
※国保法四四条 特別な理由(収入減や失業、困窮など)により、医療費窓口負担を「減額・免除・徴収を猶予」できる。市区町村が独自に条例を定め、基準や理由など運用を定めて実施する。
集会での論点整理
論点1 高すぎる窓口自己負担、現物給付を原則に、償還払いの撤廃
医療、介護保険改悪と、保険で良い医療・介護を受ける権利
論点2 無料低額医療制度の拡充と可視化、具体的な課題
論点3 国保都道府県化と国保法44条、77条を実効あるものに改革していく
生活保護など社会保障制度の拡充
論点4 受療権保障を社会保障の入口に
〈指定報告から〉
○窓口負担完全無料化への運動
長野県社保協事務局次長(南信勤医協事務) 村田洋一さん
現在、全ての都道府県が何らかの子どもの医療費助成制度を実施しています。三八都府県は現物支給ですが、九道県は「償還払い」。その一つである長野県では、長野県社保協が中心となり、完全窓口無料化を求めています。
市町村単位で見ると、助成の対象年齢は「一五歳になる年度末」までが通院・入院とも最も多く、「所得制限なし」は八割超、「自己負担なし」も六割弱まで広がっています。厚生労働省は昨年一二月、こうした実績を踏まえ、助成を行う自治体へのペナルティー(国保の減額調整措置)を行わないと通知しました。
村田さんは、「画期的だが、財源を助成拡大には使わないとの表明は問題。さらに医療費助成制度を拡充させよう」と訴えました。
○民医連がとりくむ無料低額診療事業~社会保障制度の改善に向けて「可視化」と共有を
全日本民医連社保委員会「無低診調査」PJ 藤原勝之さん
二〇一五年四月~一六年三月、四県連の事業所で全ての新規利用申請者二二八事例を調査、分析しました。男女比は六対四で四〇~六〇歳代が半数。一八歳以下が四九人と多いのは、北海道で教育委員会を通じて無低診を周知しており、就学援助世帯を無低診の対象としているためです。
就労状況を見ると、就労は三〇人。無職が九八人で、うち世帯収入が完全にゼロというのは三一人。国保(短期証含む)が一一八人と過半数を占める一方、無保険も二五人で一割超。紹介経路は「本人、家族が以前無低診を利用」「受診時に相談」「民医連の他事業所の紹介」が多数ですが、「学校・教育委員会からの周知」二六人、「就学援助世帯」一九人という点が注目だと報告。
また、無低診から見えてくる課題(不安定雇用、低年金、生活保護制度の改悪など)の解決にとりくむ重要性を強調しました。
○無低診の拡充と可視化、具体的な課題
北海道勤医協本部 組織広報部長 近藤良明さん
北海道では昨年、道教育長が、保護者への就学援助制度の周知徹底と無低診などの各種支援制度を知らせるよう通達。上富良野町や帯広市がホームページで無低診と実施機関を紹介。苫小牧市、札幌市では、就学援助決定通知に無低診の通知が同封されました。
自治体と交渉を重ね、道議会で真下紀子道議(共産)が、「札幌や旭川の医療機関は、就学援助世帯全員を無低診の対象としている。道として事業の周知が大事」と主張しました。
ポスターやパンフ、相談カードも作成。職員と共同組織で無低診の患者を訪問しています。
○国民健康保険法第44条と共に
広島・福島生協病院 岡野恵美さん
私たちは、一九六〇年代から被爆医療の対象にならない困窮者の支援策として、国保四四条に基づく減免を広げてきました。
以前の広島市の基準は、「生活保護基準一三〇%以下」。その結果、二〇一〇年度に広島市で生活に困窮した市民が利用した制度のうち、生活保護と並んで国保四四条が全体の三割を占めました。しかし広島市は一二年に基準を変更し、「一年以内の収入ダウン」を条件にしました。毎年二〇〇〇件前後あった四四条利用は一五年には六四〇件まで激減。これまで利用していた人も対象外となり、未受診になった事例もあります。
岡野さんは、「後退した制度を取り戻すのは一筋縄ではいかない。患者さんへの影響を語り、減免の効果を発信しつつ、他団体とも連携して制度を守り作る運動にしていきたい」とまとめました。
困難事例から見えた実態を政策提言へ
長友薫輝さん(三重短期大学)の学習講演から
社会保障の後退が続いています。今の社会保障制度を堅持することと同時に、受療権を守る新しい医療制度を構築していく内容の運動が求められています。
「自己責任論」に象徴されるような、非科学的な論説が幅をきかせています。例えば、社会保険には「社会原理」と「保険原理」があります。自己責任や相互扶助では対応できない疾病や失業、老齢、障害などの問題に社会的に対応するのが「社会原理」であり、国や事業主負担の根拠です。これが民間保険との違いです。「保険原理」ばかりを強調して「保険料を払えなければペナルティーが当たり前」という考え方は間違っています。
また「生活保護の不正受給」は多くの国民が知ることですが、本当は全体の一%以下です。保護が必要なのに生活保護を利用できない人が八割以上。生活保護基準は最低賃金を決め、保育料や年金などあらゆる社会保障制度につながります。基準引き下げは私たちの暮らしと無関係ではありません。社会保障は「経済活動そのもの」。医療や福祉にかかわる人は、このしくみを知る必要があります。
無低診と私たちの役割
社会保障制度が貧困を拡大しています。高すぎる国保料を払うために貧困に陥るケースは全国で多発。介護保険制度改悪のもと、介護保険から「卒業」させ、保険サービスから排除する動きが広がっています。その結果、状態が悪化したり、死亡した事例も。強引なやり方は後期高齢者医療費の増大にもつながっています。
無料低額診療事業は恒久的な社会保障制度につなげるための一時的な方策です。無低診でつながった人をどうささえるか、行政との連携が必要です。無低診から見えてきた地域の実態を把握↓見える化↓制度・政策化までつなげることが、皆さんの役割です。地域の実態をよく知り、人とのつながりもある共同組織も出番です。
社会保障制度がおおもとから転換されようとしている今、地域から行政に対してデータに基づいた政策提言をする。「つくる」運動はとても魅力的です。
(民医連新聞 第1645号 2017年6月19日)