フォーカス 私たちの実践 嚥下体操の効果 岐阜・みどり病院 数分の体操で嚥下を維持・改善 とろみ不要になった人も
嚥下機能は年齢を重ねるほど低下します。一度低下すると、リハビリを行っても完全な回復は難しい。そこで、みどり病院では嚥下機能の低下予防に「嚥下体操」を導入し効果を検証しました。同院回復期リハビリ病棟(四四床)の看護師・末松佳代さんの報告です。
きっかけは、病棟で初めて、誤嚥性肺炎をきっかけに自宅退院ができず、看取った患者さんが出たことでした。それまで以上に、嚥下機能低下の予防に徹底してとりくもうと意思統一しました。
末松さんを中心に嚥下に関わるケア方法を学習。言語聴覚士などとも検討し、浜松リハ病院の嚥下体操を参考にとりくんでみて、効果を調べることにしました。
昼食前に体操を実施
文献などを参考に、嚥下機能評価シートを作るところから始めました(図)。看護職以外の病棟スタッフでも使いやすいよう工夫しています。
次に、この評価シートに基づき対象者をピックアップ。(1)二五点以下の評価だった人、(2)水分摂取にとろみが必要な人、(3)嚥下食・移行食の人、このどれか一つでも該当し、食堂まで移動可能で嚥下体操が可能な患者さんです。
二〇一五年一一月九日から一六年一月八日までを検証期間としました。その間の新規入院患者さんの嚥下機能も評価し、対象になれば協力をお願いしました。
嚥下体操の実施は、平日の昼食前。対象者全員が食堂に集まり、看護師といっしょにDVDを見ながら行います。所要時間は約八分間です。
参加状況を毎回確認し、体操開始から一カ月ごと、および退院時に嚥下機能評価シートを使って機能評価を行いました。
数日でも効果が
検証期間中に退院する患者さんもいたため、参加日数が最も短かった人は六日間、最長でも三〇日間でした。体操を始めて一~二週間の短期間でも、嚥下機能評価シートの点数が向上した患者さんがいました(図)。
水分のとろみの有無について比較すると、検証開始前は約七割が「とろみあり」でしたが、体操を始めて一~二カ月後には約三割にまで減少していました。
嚥下機能評価シートの評価点数の変化は下図の通りでした。減点=悪化した患者さんは一人もおらず、全員が維持もしくは改善していました。移行食が常食に、全粥が軟飯になど、食形態が改善している患者さんもいました。
「今まで、なぜ自分にとろみが必要か分からなかった。普通のお茶が飲めると思っていたから」と患者さんからも感想が。嚥下体操は、患者が自分の状態を理解する助けにもなりました。改善してとろみが不要になった患者さんからは、「お茶がおいしい!」と好評でした。
QOL向上のために
検証後、昼食前の嚥下体操を本格導入することにしました。「効果が大きく、研究で終わらせるのはもったいない。病棟スタッフ全員で協力してとりくんでいます」と末松さん。リハビリは食事の前に終わらせ食堂に集まれるように調整、ケアワーカーは昼食の配膳のタイミングを調整するなど、嚥下体操にとりくめるよう工夫しています。体操中は看護師が付き添い、うまく力が入っていない部分をサポートしたり、発声練習で「もう少し大きな声で」と声をかけるなどしています。
食堂に来られない患者さんには、個別のケアを検討しています。「病棟の言語聴覚士は一人。看護師も意識して嚥下のケアにとりくみ、患者さんのQOLの向上につながれば」と末松さんは語りました。
退院後も課題です。ケアを続けなければ機能低下の恐れがあります。退院後でも行える工夫、家族などへの支援も考えています。
(民医連新聞 第1645号 2017年6月19日)
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