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民医連新聞

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社会と健康 その関係に目をこらす(13) どう動くか “口からみた貧困” 告発 『酷書』 手に改善運動へ 「歯科酷書」 第3弾作成に着手 保険で良い歯科医療署名もスタート

 治療にたどり着くまでの間、どれほど苦痛だったろう―。そう思わずにいられない、痛々しい口腔写真が続きます。5月21日に東京で開かれた「歯科酷書キックオフ集会」でのこと。「口から貧困が見える」と告発し、日本の貧困や歯科の医療政策に問題提起を続けてきた民医連の歯科集団が、第3弾の『歯科酷書』づくりと、保険で良い歯科治療の実現を求める請願署名に動き始めました。(木下直子記者)

 『歯科酷書』は、民医連歯科が治療現場で遭遇した「口から見える格差と貧困」事例を集め、二〇〇九年に報告したのが第一弾。以後、二〇一二年に、無料低額診療事業の利用患者を中心にまとめた第二弾を発表、今回が第三弾です。「無料低額診療」「子どもの貧困」「治療中断」の三つの切り口を手がかりに、社会環境が口の健康に影響している問題を告発しようとしています。
 この場でパイロット版のような事例報告も、北海道・きたく歯科、東京・相互歯科、鳥取・せいきょう歯科クリニック、福岡・千鳥橋歯科の四事業所が行いました(報告の一部を左項に)。

■歯科版「手遅れ事例報告」だ

 「『酷書』は歯科版『手遅れ事例報告』です」と、事例集約の提起を行った歯科部員の榊原啓太さん(歯科医師、巨摩共立歯科診療所)は説明しました。そして「症例の告発に留まらず、社会的困難=生きづらさが、歯科受診を抑制していることを告発し、『保険で良い歯科医療を』の運動をすすめよう」と、春から始まった署名運動とも深く関連していることを明らかにしました。

■署名運動とセットで

 なお、この「いつでも、どこでも、だれもが、お金の心配をせず保険で良い歯科医療の実現を求める請願署名」(保険で良い歯科医療を全国連絡会)の目標は四~一一月で五〇万。民医連の目標はこのうち二〇万筆、六月一日の第一次提出集会では、一万三〇〇〇筆を提出しました。医科や介護分野にも協力を要請し、歯科のない県連も含め全体でとりくめるよう具体化・推進を呼びかけています。

* *

 提起や事例報告を受けて行ったフロア討論は充実した内容に。また情勢講演に公益財団法人「あすのば」村尾政樹事務局長を招き、子どもの貧困問題を学習しました。

集会 フロアー討論から―

子ども、中断、国保、困っている人、つかむには?

 集会での討論は、具体的な事例をはじめ、どんな思いで困難な患者さんに向かっているか、問題を掘り起こす工夫など、活発に展開しました。

■実態

 京都・あすかい診療所歯科からは、無低診の利用患者を通して浮かんだ国民健康保険の問題が報告されました。歯のない六〇代男性が相談に来ましたが、保険料が払いきれず、月給から毎月三万五〇〇〇円を差し押さえられている状態でした。滞納が二〇万円を下まわるまで短期証が出ませんでした。他にも保険証を取り上げられた患者さんが。事務長が役所に同行し交渉しても「命に関わる病気でない」と応じない場合も。「保険料を払うためにがんばって働いているのに、保険証が手にできていない。私たちが出会っているのは氷山の一角だ」と指摘しました。
 熊本からは被災者に窓口免除措置がされて治療に来たとみられる事例の報告が。「もともと存在していた問題が、震災をきっかけに浮かびあがったのだと思う」と。
 「私たちが出会う口腔崩壊などの困難事例は、受診抑制の結果だと受け止めている。医療機関へのフリーアクセス権が、貧困や公共交通の不備など様々な社会的要因により奪われている」と語った歯科医師も。

■問題発見するために

 困っている患者を掘り起こす工夫を日常診療に組み込んでいる事業所もあります。岡山の水島歯科では、口腔崩壊状態の患者には、二度目の受診日に歯科衛生士が時間をかけて聴き取りしています。東京の相互歯科でも衛生士が「生活問診」を行っています。
 大阪・たいしょう歯科では、法人で始めた子ども食堂で歯科医師が口の健康を見守る試みを開始。
 全日本民医連の中田幸雄理事(鳥取・せいきょう歯科)は「酷書づくりで考えてほしいのは、社会的困難な人の存在。困難な人に寄り添う、私たちの目と構えを鍛える運動として、とりくもう」と発言しました。


ケース 小児の困難は親からの連鎖

 臼歯の孔に入ったビーズがとれないと急患で来院した小学生。う蝕(虫歯)が9本、うち4本に根治が必要な状態。親から治療費の相談があり、学校病の医療券が使えることを説明し治療したが、中断。後日、痛みを訴え急患対応、しかし再び中断。両親に軽い知的障害があり、家計は父のアルバイト収入のみ。生活保護は親族の強い反対で申請できず。両親の過去の受診歴から、父は14本、母は12本という多数の虫歯。貧困と口腔崩壊が子どもに連鎖している。
 障害が軽度のため、世帯には公的援助が入っておらず、親子の治療再開・継続に、無低診の利用やキーパーソン探しが課題。


ケース 無低での治療を中断

 「歯が痛む。口の中がボロボロ」と訴える20代男性。6~7年前から痛み止めを飲み続け、効かなくなった。痛みで歯磨きもできず、食事も朝昼は飲料のみという。市役所に無低診を紹介されて来院。全顎治療が必要な口腔崩壊状態で、毎週治療しても1年以上要する。母子家庭に育ち、高校中退後に派遣労働者になった。結婚して2人の子と妻の実家に身を寄せるが世帯収入は十数万円。生活保護は本人の仕事が決まり、適用外。無低診適用し、治療開始したが3カ月目に「時間がない」と中断。仕事は駅などでの物産販売で、半年後つながった電話では「治療で仕事を休めというのですか?」と。さらに半年後の現在、電話は不通に。年収300万円程度では保険料減免はあるが、窓口負担が負荷に。患者負担軽減を求める必要あり。


ケース 見えない受診困難者

 法人が年2回行っている無低診相談会をテレビで見て、後日受診した40代。子ども2人を抱えたシングルマザーで1年更新の契約社員。上の前歯4本は指で抜ける状態で「1日でも前歯がないのは困る」と。対応し、前歯を作った後、高速道路を使っての通院は困難だと主訴解消で治療中断。法人の無低診相談の1割程度が歯科の相談で多くの受診困難者の存在を痛感する。

(民医連新聞 第1645号 2017年6月19日)