原発労働者の健康相談スタート 健康管理の課題は山積
四月二三日、全日本民医連は原発労働者の健康相談会を初めて行いました。高線量の下で事故原発の収束作業にあたる原発労働者の健康をめぐっては、劣悪な労働環境をはじめ、被ばく後時間を経て発症する晩発性障害の早期発見や治療を行う制度がないなどの問題が当初からありました。相談に来た作業員たちの話から分かったことは―。健康相談会は、今後も定期開催します。(木下直子記者)
会場の小名浜生協病院(いわき市)に、被ばく問題委員と労働者健康問題委員の医師四人が集まりました。同院職員が問診にあたり、地域の労働組合も相談窓口を開きました。民医連はこれまでも原発労働者と懇談し、健康対策の抜本改善を国や東電に要望してきましたが、相談会は初めてです。
作業員が語ったこと
やって来たのは五人。事故前から各地の原発を渡り歩いてきたベテランから二〇一一年の緊急作業にあたった人、最近働くようになった人まで様々です。ストレスの多い作業環境、体調不良が被ばくのせいかもしれない不安、危険に見合わない報酬、手当をピンハネする会社への不満、相談者たちは率直に語りました。
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二〇一一年三月末に緊急作業にあたったAさんは、半月で二〇ミリSv以上被ばくしました。線量計なしで作業に出された時期があり、正確な被ばく線量は不明です。この二カ月後に事故原発から二〇km圏内の火力発電所でマスクや線量計なしで働きました。このころ、だるさや虚脱感などの体調不良が数カ月続きました。危険手当は一〇万円だった頃ですが、本人の日当は一万円台。健康不安は「考えるとキリがない。家族のためにがんばるしかない」と話しました。
「『命を縮めているかもしれないのに、除染作業に毛が生えたような給与でどうする?』と他社の作業員に言われ、おかしいと気づいた」と話すのはBさん。事故から六年目に原子炉建屋のがれきを扱いました。「とんでもない線量のヤツもある。あぶないがれきは運んでいる途中で線量計がピーピー鳴る。それでも止められる作業でなく、逃げ場はなかった」と。被ばく量は多いのに、作業場所が建屋の外という理由で日当は二万円。半年ほどで累積被ばくが三〇ミリSvに達しました。
放射線を扱う仕事をする人の被ばく上限は一年で五〇ミリSv、五年で一〇〇ミリSvと法律で決まっています。請負企業はその数値の五~六割で独自の上限を設定、それに達した労働者は働けません。
「四月から被ばく量はリセットされるから、原発に居られるよ」と会社はBさんをひきとめました。家族を養うお金は必要ですが、戻る気はありません。「数カ月で働けなくなるならせめて一年暮らせる報酬に。被ばく線量が多いと、除染作業もできない。こんな労働条件で作業員のなり手がなくなったら事故収束はどうなる? 福島への差別は地元の者には他人事でない。早く収束させて状況を変えたいのに―」と語りました。
健康対策の現状
当初から指摘があった原発労働者の健康管理や待遇の問題が依然としてあることがこの日、再確認された形。被ばく後、年月を経て出る晩発性障害に備えた健診制度も、ごく限られた労働者しか対象にされていません(下表)。
「胆管がんが出た印刷業のように、有害業務とされる二一業種に『健康管理手帳』(労働安全衛生法)が交付されていますが、原発労働者にはそれがない。事故が起き、被ばくしながら作業するいまも『原発労働では被ばくしない』を前提にした事故前の制度を見直していないことが大問題」と労働者健康問題委員長の田村昭彦医師は指摘します。
・放射能を扱う労働者⇒電離放射線健診(年2回、離職すれば終了)
・事故~11年12月15日(事故収束宣言)に作業し、被ばく量が(1)50ミリSv超⇒「手帳」交付と白内障検査、(2)100ミリSv超⇒胃・肺・大腸のがん検診と甲状腺・肝炎・腎機能検査(以上は年1回、離職後も国が実施、対象904人)、(3)50ミリSv未満⇒電離放射線健診とストレスチェックの報告(対象1.7万人、研究目的に生涯追跡、健診受診15年度5%以下)
※11年12月16日以降の労働者は50ミリSv超被ばくでがん検診費用を東電が負担
相談活動、今後も続ける
相談を終えて。被ばくしながら作業にあたる原発労働者には、まともな健康管理制度が必要だ、と相談にあたったメンバーは痛感しました。
多くの原発労働者の相談に乗っているいわき市議の渡辺博之さん(共産)は「気になりつつとりくめていなかったのが健康問題。『健康の心配はない』と言う作業員もいますがそれは『心配しても仕方ない』『気にしないことにしている』という意味です」。「この状況はなんとかしないといかん」と山下義仁医師(鹿児島)。
原発労働者の健康をめぐっては、健康管理の必要性を示すデータが出ています。福島の事故原発で復旧作業をした労働者三人が労災認定されています(白血病二、甲状腺がん一)。白血病なら「五ミリSv以上の被ばく量×従事年数」が労災認定ラインですが、年間五ミリSv以上の被ばくをした労働者は、二万一〇〇〇人超。また、放射線にさらされる労働者に義務づけられている電離放射線健診で「所見あり」の人が、事故前より増えています(福島第一原発の管轄署)。
民医連が求めてきた健康対策
全日本民医連は、福島第一原発事故後、原発労働者からの聞き取りなどをもとに、健康管理に関しては次のような要望を国や東京電力に行ってきました。
・原発労働者への「健康管理手帳」交付
・事故原発で作業にあたった労働者に生涯にわたって健診と医療を保障すること
・原発労働者の労災対象疾患の拡大(原爆症の認定対象である心筋梗塞や肝疾患/PTSDなど精神的な障害)
(二〇一四年一月の要請から)
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「福島に居ながら不勉強でした。労働者を守れる制度を作らないと、廃炉のために働く人が続かない。ささえていかないと」と小名浜生協病院の保健師・川崎美和子さん。國井勝義事務長(全日本理事)も「『我々だけでは対応できない』と、今まで消極的だった面もあった。全日本民医連とともに、この相談活動を続けたい」。
(民医連新聞 第1645号 2017年6月5日)