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民医連新聞

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社会と健康 その関係に目をこらす(12)どう動くか 総合事業で緊急事態 介護サービス「卒業」 優先された果てに ―大阪府大東市・協立診療所からの発信

 「一年前に『新総合事業』が始まり、深刻な問題が起きている」と連絡が入りました。「新総合事業」とは、二〇一五年の介護保険法改定で盛り込まれた制度。要支援1と2の人の訪問・通所介護サービスを介護保険から市町村が行う事業に移行することとされました。地域の力を活性化させるなどの期待もある一方、研修を受ければスタッフは無資格で良いなどの要件緩和や事業所への報酬カットなど、安上がりの介護に偏れば、問題が起こります。同事業は今年三月末で猶予期間が終了、今年度中に全自治体で完全実施に。今回の事例は全国に警鐘を鳴らすものです。発信元の大阪の協立診療所で聞きました。(木下直子記者)

 協立診療所(医療生協かわち野)は大東市にあります。同市は二〇一六年四月から新総合事業に移行した自治体です。
 問題は七〇代の川本さん(仮名)に起きました。一六年夏に歩行困難や下肢の痛みで来院した男性です。糖尿病の末梢神経障害と診断され、東大阪生協病院でリハビリや糖尿病治療を三週間行い、自力で歩けるまでに回復し九月半ばに退院しました。

要支援1、通所リハ行けず

 申請した介護認定の結果は要支援1、総合事業の対象です。リハ専門の橘(きつ)田(だ)亜由美医師は、川本さんの退院後の治療方針として協立診の通所リハを利用することと、自宅で困難な入浴もそこで行うよう盛り込みました。ところが大東市は「担当者が評価してどんなセルフケアが必要か決める」とし、通所リハはせず自分で介護予防体操を、入浴は風呂場を改修し自宅で、と決めてしまいました。
 その後の定期受診で、川本さんが、体操も入浴もできていないと判明。診療所は担当ケアマネに経過をきくと同時に、通所リハの必要性を再度連絡。すると、市がまた注文を出してきました。「通所リハでなければ改善しない理由や、三カ月の通所リハでどこまで改善するか意見書を出すように」と。橘田医師が説明を申し出ても市は理由をつけて応じません。
 介護度の区分変更を試みている間に、ケアマネが交渉し翌年二月から通所リハ開始となりました。やっと来られた川本さんの状態は退院時からひどく悪化していました。全身の動きが低下、下肢の感覚が無く転倒もします。血流が低下して足指が黒く変色しているのもスタッフが見つけました。緊急入院し下肢切断はいまのところ免れていますが、寝たきりになり、自宅に戻る見通しはたちません。

なぜこんなことに

 「主治医が必要とした通所リハがなぜダメだったんでしょう。来ていれば、こうはならなかった」とデイ管理者の岩下裕江さん。
 市は川本さんを総合事業の「短期集中ケア」の対象とし、体操指導の訪問看護を入れていました。診療所が担当看護師に問い合わせると「指導中に血圧が上がったので四回で終了した」と。指導も体操DVDを流す程度でした。四カ月、川本さんは家で寝て過ごしていたのです。入浴も一度きりで家族も悪化に気づけませんでした。
 同市は総合事業の対象の「要支援」のケアプランはすべて点検しています。目的は「自立」、介護サービスからの「卒業」です。総合事業の開始の際、市が事業所に力説したのもそこでした。「『卒業を目指すのは、八〇代も九〇代も関係ない』と市は言い切った」と説明会に出た岩下さん。同僚の髭野理恵子さん(作業療法士)は「通所リハの大事な目的である『日常生活の獲得』の視点が抜けていないか」と指摘します。

80代で難病でも「卒業」

 診療所では、総合事業実施に伴い「要支援」が通所介護(デイサービス)の対象外になることへの対応として、運営していた通所介護を通所リハ(デイケア)に変更。通所リハなら医師の指示で、要支援者も利用できるからです。
 利用者に要支援の人が増えました。その中から川本さんの他にも納得いかない事例が出ています。
 この三月にも「目標を達成したのでサービス終了」とケアマネから連絡が入った利用者がいました。神経難病でイスからの立ち上がりも難しい八〇代女性です。本人には転倒したら、また連絡するよう説明があったといいます。「コケたら遅い! コケへんための通所リハでしょう」と、岩下さんは怒ります。自立を強力にすすめて「介護給付費が減らせた」と宣伝する市に疑問は尽きません。
 起きていることを知らせようと、四月二二日に大東市の社会保障推進協議会で検証の会を開き、橘田医師や西村祐美子看護師長が実態報告しました。

総合事業1年で検証集会「実態知らせ改善を」

 四月二二日に大東市内で行った「ここが問題! 大東市介護保険 総合事業一年を検証する集会」には、介護事業所や近隣自治体から約二〇〇人が参加しました。

「卒業」迫るのはおかしい

 橘田亜由美医師と西村祐美子看護師長が、診療所の患者さんに起きている問題を報告。橘田医師は、医師への確認なしに医療の訪問リハビリが中止された要支援2の進行性の脳疾患の人の事例や「要支援だから」という理由で、本来利用できるサービスが使えなかった事例(通所リハビリ、小規模多機能ホーム、介護保険の訪問看護)を紹介。能力を維持するための維持期リハビリには継続が必要なこと、そして「通所リハと訪問リハこそ維持期リハの担い手であるのに、卒業を迫る圧力が高まっている」とリハビリ専門医の立場で指摘。「制度の枠組み最優先で、サービスが切られていくことに抵抗を感じる」と語りました。

介護認定数は明らかに減少

 大阪社保協からは、同市の総合事業の問題点を他の市町村との対比も加え解説しました(介護保険対策委員長・日下部雅喜さん)。
 総合事業開始から一年で、大東市の介護認定数は開始前の前年度より大幅に減っています。要介護認定者数は一〇・三五%、要支援1は三二・三六%、要支援2で二六・九九%のそれぞれマイナスです(今年二月、市の発表)。
 新総合事業の開始後に介護保険の利用を新しく申請した高齢者を介護認定にまわさず、チェックリストを使って総合事業に誘導したり、地域包括支援センター向けには「卒業加算」を創設するなど、利用者を介護保険から締め出す仕組みも作られています。
 大阪府や国は大東市を事業のモデルの一つにしています。国会で審議中の介護保険等改正法案にも、こうした「卒業」重視の自立支援の発想が入っています。
 集会の最後には患者・利用者さんと関わる事業所・団体が実態を訴えていこうと意思統一。大東市への改善要望も確認しました。

(民医連新聞 第1644号 2017年5月22日)