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民医連新聞

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こたつぬこ先生の社会見学 ~3.11後の民主主義 (2)「子どもを守れ」

 この数カ月の間「森友学園事件」が世間をにぎわせました。大阪で建設予定の小学校に格安で国有地が払い下げられていたことに端を発したこの事件の顛末(てんまつ)は、連日ニュースやワイドショーで話題になりましたから、もはや詳しく述べる必要はないでしょう。
 ただこの事件、途中から少し様子が変わりました。次々とネタがリークされ、マスコミが現場に殺到し、あの籠池(かごいけ)氏が「主人公」になったあたりから、まるで「劇」のようになりました。どうも私たちはいつのまにか「観客席」に追いやられたように思えます。そして、私たちが最初にこの事件を知ったときの衝撃と怒りは、どこかに置き去りにされてしまったようにも思えます。
 この学園では、戦前の教育勅語を暗唱させ、運動会で「安倍総理がんばれ」などと言わせ、さらに子どもたちにろくに食事も与えずトイレにもいかせない虐待を行っていました。そして子どもをまるで奴隷のように扱う学園の小学校に最高権力者の名前がつけられようとしていたことに、私たちは恐れを感じたのではなかったでしょうか。「子どもへの虐待」こそがこの事件の本質であり、この学園の教育は、とりわけ教育や保育、医療にたずさわる者ならば、普段から目の当たりにしているこの国の恐ろしい現実の「縮図」にほかなりませんでした。だからこそ、私たちはまず「当事者」として、この事件に強い憤りを抱いたのではなかったでしょうか。

民主主義の当事者として

 「子どもを守れ」は脱原発運動のデモや集会でよく唱えられるスローガンです。原発事故、放射能汚染、避難にもっとも苦難を被るのは自ら声をあげることができない子どもであり、彼らを虐げる非人間的な政治と対決する意思が、このスローガンには込められています。ここから、つまり原発事故を経験し、それに抗議してきた私たちの経験とまなざしからすると、教育勅語は単なる戦前の暗黒時代への回帰ではなく、いま目の前にある児童への虐待の象徴であり、あの学園の教育は伝統や家族の大切さを唱えながら実は弱者を切り捨てるこの国の政治のあり方そのものだということが明らかになります。
 この事件が今後どう展開していくかはわかりません。ただ政権や官僚たちがもっとも恐れているのは、私たちが観客席から民主主義の舞台に上がることです。私たちが客席から舞台に上がろうとするとき、脱原発運動が生み出した「子どもを守れ」というスローガンは、政治の冷酷さに怒れる人と人とを結ぶ絆として再び唱えられることになるでしょう。

こたつぬこ:本名は木下ちがや。政治学者。著書に『国家と治安ーアメリカ治安法制と自由の歴史』、翻訳:デヴィッド・グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』など Twitterアカウント@sangituyama

(民医連新聞 第1643号 2017年5月1日)

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