アスベスト被害、見落とさない 民医連HPに「診断サイト」を公開
このたび、「アスベスト診断サイト」が完成し、全日本民医連のホームページに公開しています。このサイトを三年かけて開発した全日本民医連労働者健康問題委員会の田村昭彦委員長(九州社会医学研究所所長)は「アスベスト被害の可能性がある患者を一人も見落とさないように、医療現場ですぐに使えて、患者支援に役立つものをめざした」と説明します。サイトの内容や活用法、アスベスト被害者救済に向けたとりくみなどについて紹介します。(丸山聡子記者)
資料なしですぐ使える
サイトは、日常診療の中でアスベスト関連疾患の診断から労災や石綿救済法にもとづく申請まで、別途資料などの準備なくできる内容です。「原発性肺がん」「間質性陰影」「胸水」「胸膜肥厚像」「石綿健康管理手帳」のそれぞれにフローチャートがあり、それに沿って作業していくしくみです。
例えば「原発性肺がん」の場合(図)、喫煙の有無から次の項目「アスベストばく露歴の問診」にすすみます。チャート内の指マークの部分をクリックすると、石綿を扱う仕事の内容や現場写真、肺のX線、CTの画像や診断方法、申請に必要な診断基準など、必要な情報が出てきます。
これらの結果によって、労災か石綿救済法の申請にすすむと、申請書のひな形が出てきます。申請書の記入例や留意点も表示。これを参考にして申請書類を完成させることができます。
サイト内の質問コーナーをクリックすると、質問や改善提案を送信できます。また、アスベスト関連疾患の診断や申請の情報、治療機関などの紹介もしています。
〈田村昭彦医師の話〉
全患者にフローチャートを
二〇〇五年にいわゆる“クボタショック”がありました。しかし、アスベストの労災や石綿救済法の認定はあまり広がっていません。「申請しても認定されない」のではなく、残念ながら「申請まで至っていない」ケースが多いのが現実です。
例えば統計では、中皮腫が一人いれば、アスベストによる肺がんは二人いる計算ですが、認定結果を見ると中皮腫一人に対し、肺がんは一人に満たない。本当はアスベスト関連でも患者に喫煙経験があることから「喫煙による肺がん」と判断されているようなケースが多いのではないでしょうか。
民医連はクボタショック直後からアスベスト対策強化の方針を決めました。二〇〇八~一〇年にかけて、民医連の事業所で「原発性肺がん」と診断された患者八九三例を調べたところ、約一三%にアスベストの影響があったことが分かりました。改めて民医連の事業所で全例をフローチャートで検討すれば、これまでと異なるアスベスト被害の様相が明らかになるのではないかと考えています。そのことによって、今後増加が予想されているアスベスト関連疾患の患者の救済に新しい道を開きたい。
ですから、このサイト作成に際しては、「アスベストによる被害の可能性がある患者を見落とさない」ことを第一に考えました。そのためには、アスベスト関連疾患を疑った患者だけでなく、民医連の全ての事業所で「原発性肺がん」「間質性陰影」「胸水」「胸膜肥厚像」と診断した全患者をフローチャートにのせる必要があります。
サイトは一年間、民医連の事業所で使ってみて改善を図る予定です。また、医師だけではなく看護師やSW、事務など他職種の活用も想定しています。多角的な視点で改善点などを寄せてほしいと思っています。こうしてサイトを利用することで、改めて「疾患と働き方」の関連性について学び、一歩踏み込んで働き方や職業歴を聞き取ることが習慣づくようにしてほしいと思います。
SE労組の協力で完成
作成にあたっては、ともに労災や労働者の健康問題にとりくむ労働組合・コンピューターユニオンのシステムエンジニア(SE)たちの協力がありました。働く人たちの連帯に、改めて感謝を述べたいと思います。
(民医連新聞 第1643号 2017年5月1日)
- 記事関連ワード