健康を守る国キューバ 全日本民医連 第6回視察
全日本民医連は三月四~一一日、医師、歯科医師はじめ、医学生、歯科学生など二五人で第六回キューバ視察を行いました。三月の全日本民医連理事会で、参加した上原昌義医師、岩下明夫歯科医師の両理事が報告しました。
上原昌義理事(医師、沖縄民医連)
医療観が変わり、今後やるべきことが明確になった視察でした。キューバの憲法は「全ての人民は健康を保持する権利があり、国家はその責任がある」「教育は国の役目であり、無料とする」とうたっています。視察を通じて、それが守られていると実感しました。
キューバの医療は三層構造です。かかりつけ医であるファミリークリニック、その上にポリクリニコ、さらに診断・治療が難しい場合は上級の総合病院です。すべての段階で収集したデータをもとに研究もしています。エイズの感染率は日本より低いなど、感染症対策は素晴らしいと感じました。
医学部では小児科と産科研修は必須。ファミリークリニックでは子どもも診るし、避妊指導も行います。医師と患者は対等で、診察は患者一人に三〇~四〇分。視察したクリニックが管理している患者は一一〇八人。驚いたのは、「健康な人」「喫煙や飲酒などリスクファクターを抱えた人」「病気の人」「障害があったりリハビリが必要な人」の四グループに分け、地域住民を把握していることです。また家族全員のカルテを作り、例えばがんの多い家系には個別に対応しているそうです。「ここまでできているか?」と自分たちの医療活動を問い直しました。
キューバにも米軍基地があり、沖縄の米軍基地反対の運動を報告すると、「一緒にたたかおう」と言ってくれ、相談をしています。
キューバはアメリカの経済封鎖の影響で施設は古いのですが、とりくみは素晴らしい。困難があっても実情に根ざして地域医療、地域介護を守っていることを生で学べたことが、最大の収穫でした。
岩下明夫理事(歯科医師、東京民医連)
私は、「キューバの歯科医療を知る」「人口対比で世界一多いと言われるキューバの歯科医師の役割を知る」「歯科衛生士や歯科技工士の働き方を知る」「キューバの人の口腔内の観察」を自らのミッションに視察に行きました。
歯科治療施設はポリクリニコにあり、救急にも対応しています。三つのファミリークリニックを一人の歯科医師が担当。月一回は地域の学校で歯科検診やフッ素塗布などを行っているそうです。子どもの頃から口腔を管理し、予防を重視していました。
身体障害と知的障害を併せ持つ児童の施設も見学しました。リハビリや歯科施設も併設し、周辺の歯科治療も担っています。どこからでも歯科にアクセスできる環境が整っているのが印象的でした。
医療技術大学での学生との懇談の後、矯正治療の経験のある学生に口の中を見せてもらいました。矯正のやり方はほとんど日本と同じだと感じました。
なぜ民医連はキューバに?
視察報告会より
三月三一日、「キューバ医療視察報告会」が東京で開かれ、四〇人(医学生四人、歯学生一人を含む)が参加。団長の増田剛医師(副会長)は、今回で六回目となったキューバ視察は、二〇〇八年理事会での長野県農業大学校の吉田太郎教授を招いた「キューバ医療の学習会」がきっかけだったと語りました。
また、全日本民医連の藤末衛会長が、民医連がなぜキューバに注目するかにふれました。「無差別平等の医療をめざして日本で七〇年余り活動してきた私たちに、何か足りないものはないか。幸福と私たちの活動の関係をもっと学ぶ必要があるのではないか。日本は経済的に豊かでも、国民は幸福なのか」という問題意識で、キューバとの交流が始まったこと、実際に訪れて、これだと確信して、視察を重ねてきたことを振り返りました。そして、「国が医療・教育を大切に位置づけているキューバはみな明るく、地域医療・専門医療が気持ちをひとつに行われている。二〇一〇年の民医連綱領改定にもキューバとの交流を反映した。民医連活動の一つのモデルがキューバにあると考えています」と話しました。
(民医連新聞 第1642号 2017年4月17日)